時間ってなんだろう。前にしか進まない理由は?

天文学

時間が逆方向に進んだとすると、人々は歳をとらずにどんどん若返っていきます。知っていたことや技能をどんどん忘れていき、最期は両親の温かい眼差しに見守られながら人生が終わります。とても奇妙に思えますが、時間の方向というのは、宇宙学者たちが一生懸命に取り組んでいる問題の1つです。

わたしたちは、時間が方向を持っていることを当然だと思っています。しかし、物理学者たちはそう思っていません。ほとんどの物理法則は時間を逆転しても当てはめることができます。では、なぜ時間は前向きにしか進まないのでしょか?

「時間」というものに始まりはあるの?

一般的な時間の概念というものは、究極的に言えば宇宙の進化をその基本としています。宇宙を見上げて、様々な現象を望遠鏡などでとらえるとき、見えているのはすべて過去に起こった出来事です。というのも、見えているものはすべて光であり、光には一定の速度があって、私達の目に届くまでに時間がかかるからです。

とても簡単な観察から宇宙の持つ時間についてわかることがあります。それは、夜空が暗いという事実です。もし、宇宙が無限の過去を持っていて、無限の広がりをもっているなら、夜空は一面明るくなければなりません。夜空には無限の星が存在し、あらゆる過去から光が届くことになるからです。

アインシュタインを含む科学者たちは長い間、宇宙は静止しており、無限であると考えていました。しかし、観測によって実際に示されたのは、宇宙が膨張し続けており、しかもそのスピードはどんどん上がっているということです。それが意味するのは、宇宙の始まりであるビッグバンは、とても小さい状態から始まったということです。ビッグバンの前は時間が進むスペースがなかった、つまり、時間には始まりがあったということです。

ビッグバンから届く最も古い光というのは観測できるのでしょうか。実はできます。それが、宇宙マイクロ波背景放射です。そこから、宇宙の年齢を割り出すこともできます。

話はそれますが、アインシュタインの特殊相対性理論によると、時間は絶対的なものではなく、相対的です。あなたが私よりもすばやく移動しているとします。すると、あなたを取り巻く時間のスピードは、私の経験する時間のスピードよりも遅くなります。宇宙には光のスピードに近い速度で高速回転している天体もあります。(ちなみに、光のスピードが変化することはなく、宇宙で最も速いスピードとされています。)なので、宇宙では別の場所では別の時間が流れているということです。

では、宇宙全体で共有できる標準的な時間はあるのでしょうか?宇宙は平均するとどこも均質で、どの方向を向いても平均的には同じであることから、「宇宙時間」というのは存在しています。それを図るために必要なのは、宇宙マイクロ波背景放射の性質を調べることです。それによって、宇宙の年齢がわかります。天文学者たちが知ったその答えは、137.99億歳です。

時間の矢

時間が始まったのがビックバンが始まった頃であることがわかりました。しかし、まだ難題は残っています。それは、そもそも時間とは何か?というものです。

理解しやすくするために、時間と空間についての基本的な特徴を見てみましょう。空間を作る次元では、わたしたちは前へも後ろへも進めます。しかし、時間は違います。時間は方向を持ち、いつでも前へしか進めないのです。逆転させることはできません。では、なぜ時間という次元だけは逆転できないのでしょうか。物理学ではまだ解決されていない主要な問題の1つです。

なぜ時間が逆転できないのか、自然界で見られる逆転できない過程を引き合いに出して見てみましょう。物理学において、逆転できない数少ない概念の一つが、物質は時間とともに乱雑になる傾向にあるというものです。それを表す物理特性を「エントロピー」と呼び、どれだけ乱雑さをもっているのかを表します。

箱の中の一隅にガスを注入して閉じ込めることを思い浮かべてください。最初は隅に秩序だって存在しているとします。しかし、時間とともに自然と箱全体に充満するように広がってしまいます。もとの、箱の隅に押し込めようとすると何らかのエネルギーを使って介入しなければなりません。この過程は逆転不可能です。

Photo credit: gordasm on VisualHunt / CC BY-ND

それはまるで、卵をつかってオムレツを作るのに似ています。卵を割ってかき混ぜ、フライパンに広げて火を通すとオムレツになりますが、できたオムレツを元の丸い卵へと戻すことはできません。宇宙でも同じことが起こっています。その過程は進化とも呼べますが、全体的にエントロピーは増大しています。

エントロピーは時間の矢を説明できる良いアイディアです。しかし、宇宙はもっと秩序だって見えるかもしれません。熱いガスが固まって光を放って恒星になり、恒星によって生み出された物質が固まって惑星をうみ、惑星上では生物が生まれ、このような記事が書かれたりします。そのように見えても、実はエントロピーは増大の一途をたどっています。物体を引き寄せる重力によって、物質は引き寄せられて安定するように見えますが、重力場に隠れるようにして乱雑さは増加しているのです。

しかし、自然が乱雑さを好むとして、なぜ宇宙は最初の根源として最も秩序だった状態から始まったのでしょう。それは未だに謎とされます。ある研究者は、ビッグバンはすべての始まりではなく、時間が違った方向を向いていた「平行宇宙」があったかもしれないと言っています。

時間に終わりはあるの?

時間には始まりがありました。では、終わりはあるのでしょうか?それは、ダークエネルギーの性質にかかっています。ダークエネルギーとは宇宙を膨張させている原動力となっている力ですが、いまだに正体がわかっていないエネルギーです。宇宙が現在の加速度で膨張を続けた場合、宇宙は引き裂かれて終わる、ビッグリップを迎えるかもしれません。もし、ダークエネルギーが崩壊した場合、宇宙は重力で再びビッグバンの状態にまで縮み、ビッグクランチを迎えます。あるいは、宇宙はこのまま永遠に膨張を続けるかもしれません。

しかし、これらのシナリオによって、時間は終わりをむかえるのでしょうか。量子力学の奇妙な法則によれば、極小の素粒子は真空の中で一瞬だけ姿を表わすことができます。その様子は、素粒子物理学の実験で見られることがあります。ある研究者は、ダークエネルギーがこうした「量子ゆらぎ」を引き起こし、新たなビッグバンが生まれることによって、私達の時間進行が終わり、新たな時間が生まれると言います。これは非常に推測的で、とてもあり得なさそうではあります。しかし、ダークエネルギーを知ることによって、私達の宇宙の運命を知ることに繋がることは確かです。

当たり前のように過ぎていく時間ですが、実はとても不思議なものなのです。始まりも終わりもあって、宇宙のエントロピーの増加とともに前進するみたいなのです。時間のない状態や、逆転した宇宙がありうると聞くと楽しいですが、リアルに考えようとするとなかなか難しいです。とはいえ、人間にとっては時間は有限です。後悔のないように一生を全うしたいですね。

参考記事: Universal-Sci

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