ほんとに?電力も気化熱も使わずに、魔法のように冷やす方法

テクノロジー

一見ありえないことが科学技術によって達成されることがあります。まさにそれを体現するような技術が発見されました。チューリッヒ大学の物理学者が、驚くほど単純な装置を使って、電力を使わずに熱を冷たい物質から熱い物質へと移動させることに成功しました。論文は「Science Advances」に掲載されています。

常識では、熱は温かいものから冷たいものへと移動し、室温で平衡します。カップに注いだ熱いコーヒーを放置するとぬるくなるのはそのためです。この現象は熱力学第2法則、エントロピーの増大則で説明されます。一方、真夏の暑い部屋を冷やすエアコンは、電力と気化熱を使っています。エネルギーを使って介入することで自然の熱の流れを逆転させているのです。

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しかし、この新たな技術は電力による外部からの介入を行いません。なので、一見熱力学の法則に反しているように見えます。しかし、研究者によると熱力学の法則は保たれているというのです。

電力を使わず室温以下に

研究者たちは新たな装置で、100℃に熱せられた9グラムの銅を冷やして、室温よりも低い温度まで下げることに成功しました。研究者アンドレアス・シリングによると、理論的にはこの装置を使って、沸騰したお湯を凍らせることもできるそうです。

熱流振動を作る

装置は、ペルチェ素子を使ってこれを成し遂げています。ペルチェ素子はホテルに設置された小さな冷蔵庫やコンピュータのCPUの冷却に使われている半導体です。電流を流す方向で異なる温度の流れ作ることができます。これまでに、研究者たちはペルチェとインダクタを組み合わせることで、熱流の振動を作っています。2つの物体の間の熱の流れの方向が絶えず切り替わるのです。

ペルチェ素子とは、2種類の金属の接合部に電流を流すと、片方の金属からもう片方へ熱が移動するという、ペルティエ効果を利用した半導体素子のことです。

インダクタとは、流れる電流によって形成される磁場にエネルギーを蓄える受動素子です。交流電流を遅延させ再形成する能力もあります。

この仕組を使うと、冷たい物質から熱い物質へと一時的に熱が移動し、冷たい物質が更に冷やされます。この種の「熱振動回路」には「熱インダクター」の効果が含まれます。

これまでは、シリング博士のチームはこの熱振動回路にエネルギーを流して使っていました。しかし今回、外部からのエネルギーを加えなくても、この回路が機能したことが示されたのです。熱振動は他のエネルギー源を使うことなく、冷たくなった銅から22℃という暖かな浴槽へと熱を流しました。

この過程は熱力学に反するように見えますが、実際には全体の系ではエントロピーは増大していることを、研究者たちは示しています。熱力学第2法則を破っていはいないのです。

現状での限界と応用への期待

今回の実験で冷やすことの出来た温度は、室温に比べて2℃低い温度までです。このパフォーマンスを制限しているのは、使用した商用のペルチェ素子の性能です。シリング博士によると、理論的には同じ設定のもとで-47℃まで冷やせるといいます。そのためには、まだ発明されていない理想的なペルチェ素子が必要となるそうです。

この装置が素晴らしいのは、外部エネルギーの供給を必要とせず、いつまでも使えることです。ですが、実際に市場に出るにはまだ、長い道のりが必要です。効率の高いペルチェ素子が必要ですし、インダクターも電流の喪失のない超伝導インダクターが使われてるためです。

ランニングコストゼロの夢の冷蔵庫やエアコンにつながる技術ですが、まだ実現には時間がかかりそうです。エネルギー問題の解消にもつながる発明でもあるため、現実が待ち遠しいですね。

参考記事: Phys.Org

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