バイオイメージングや量子コンピュータに応用できる、色のついたナノダイヤモンドの合成にワシントン大学他の研究チームが成功しました。ナノダイヤモンドの大きさは髪の毛の幅よりも小さく、様々な不純元素を混ぜることで、色を付けることが出来ます。ドーピングと呼ばれる方法で、ダイヤモンドの結晶格子の中に他の元素を取り込ませるのです。論文は、「Science Advance」で発表されています。
ダイヤモンドの合成には超高温高圧の環境が必要となります。研究者たちは、ナノダイヤモンドにケイ素をドーピングすることで、真紅のダイヤモンドを作ることに挑戦しました。真紅のダイヤモンドは細胞や組織を画像化するために使うことが出来ます。研究の過程でたまたま、ダイヤモンドの中にアルゴンを取り込ませることにも成功しています。アルゴンは希ガスと呼ばれるグループに属しており、反応性が無いため取り込まれるとは予想されていなかったのです。
これまでも、色のついたダイヤモンドを作る方法はありました。イオンプランテーションと呼ばれる方法ですが、これは一度作ったダイヤモンドに後から他の元素を取り込ませようとする方法です。その過程でダイヤモンドの結晶構造が壊されるだけでなく、取り込まれた元素もランダムに配置されるため、実用性に限界がありました。
新たな方法では、ダイヤモンドを結晶化させる過程で同時に元素を取り込ませます。それはケーキを作る場合と同じで、ケーキを焼く前に砂糖やバターを混ぜ込むほうが、焼いた後に混ぜようとするよりも、簡単で品質も良くなるのです。
色付き合成ダイヤモンドの作り方
ナノダイヤモンドを作る出発点は、木炭の様な炭素を多く含む素材をエアロゲルと呼ばれる、軽くて通水性の状態に加工することです。このエアロゲルにシリコンを含む分子であるオルトケイ酸テトラエチルを含ませます。すると、炭素エラロゲルと化学的に統合されます。
この反応物をダイヤモンドアンビルセルと呼ばれる高圧力に耐えられる容器へと移し、15ギガパスカルという高圧をかけます。ちなみに、1ギガパスカルは1万気圧相当で、最も深い深海の気圧のさらに10倍です。これほどまでの高圧でエアロゲルが壊れない様に、希ガスであるアルゴンをくわえています。アルゴンは1.5ギガパスカルで固体になるのです。
次にレーザーを使って、1700℃にまで加熱します。この温度でアルゴンは溶けて超臨界流体になっています。これらの過程を経ることで炭素エアロゲルはケイ素分子の添加によって蛍光点欠損を持ったナノダイヤモンドになります。このナノダイヤモンドは、波長740nmで深い赤色を放射します。ほかの分子を添加すると、異なる色を放射するでしょう。
偶然の発見
研究者によると、ダイヤモンド内部に流し込める元素であればなんでもナノダイヤモンドに含ませることができるといいます。さらに、2つの元素を同時にドーピングすることで、今までに作られたことのない複雑な蛍光を生み出すこともできるでしょう。
今回の実験では、意外な発見がありました。作ったナノダイヤモンドの中に、別の2つの元素が含まれていたのです。一つはエアロゲルの崩壊を妨げるために入れたアルゴンで、もう一つは空気中に含まれていた窒素です。そこで、ケイ素と同じ様にして、アルゴンと窒素をナノダイヤモンドに多量に含ませたものを作りました。
アルゴンの様な希ガスがダイヤモンドの格子構造に取り込まれたのはこれが初めてです。反応性がない物質を取り込ませるのは簡単では無いのです。
研究者達の次の目標は、同じ希ガス類であるキセノンをナノダイヤモンドに取り込ませることです。もしできれば、量子情報科学や量子センサーに活用することができるでしょう。
バイオイメージング技術が進めば、生物学や医学の研究がさらに詳しくできる様になります。詳しい生物現象を観察出来る感度の高い目が手に入るからです。今後、研究が進めば様々な色のナノダイヤモンドが作られるでしょう。その色とりどりの照明によって、細胞や組織の生体分子が照らされてその動体がありありと示される様になるかもしれません。
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