殺人クラゲの解毒剤をCRISPRゲノム編集技術を使って発見

サイエンスニュース

触手に死に至る毒を持つ殺人クラゲ、オーストラリアウンバチクラゲ。海のスズメバチとして恐れられていますが、その解毒剤をシドニー大学の研究者たちがCRISPR技術を使ったゲノムワイドスクリーニングで発見しました。発見は「Nature Communications」で発表されています。

オーストラリアウンバチクラゲの持つ60本の触手には、毒で満たされた何百万もの刺胞がついており、一匹のクラゲの持つ毒の量は60人の致死量に相当します。このクラゲに刺されると、まず接触した皮膚が壊死し、激しい痛みを引き起こします。毒の量が致死量に達している場合、数分のうちに心臓が停止し死に至ります。

1045373によるPixabayからの画像

グレッド・ニーディー助教授のグループは、この立方クラゲの一種が持つ毒がどのような仕組みで働くのかを研究していました。研究にゲノム編集技術であるCRISPRを応用したことで、毒が人の細胞を殺す仕組みを発見できたのです。幸運なことに、毒が関与するシグナル伝達系に働く薬がすでに知られていたので、この薬が解毒剤として使えないか、マウスを使って実験しました。その結果、クラゲによる傷や痛みを抑えることができることを発見できました。

ゲノム編集技術CRISPRは、遺伝子を持つDNAへ、情報を加えたり、削除したり、取り替えたりすることが簡単にできる技術です。

Photo credit: jurvetson on VisualHunt / CC BY

今回の研究では、培養皿に広げられた何百万ものヒトの培養細胞に、CRISPRを加えて、各細胞ごとに1つづつ遺伝子機能をノックアウトしています。そこに、クラゲの毒を加えても、生き残ってくる細胞を探したのです。この、ゲノムワイドスクリーニングよって、毒が作用するために必要なシグナル伝達系因子を特定することが出来ました。

シグナル伝達系は、細胞内部、あるいは細胞間で情報を伝えるための、分子によるコミュニケーション網です。あらゆる生命活動は、この伝達系によって機能が調節されています。毒物はこの経路を悪用することで細胞を害するのです。

今回特定された伝達系因子はコレステロールが使われていました。コレステロールに作用する薬はたくさん存在しているため、毒の機能を食い止められるものを探すことが出来ました。研究で利用された薬剤は安全性が確認されているもので、見事に解毒することが出来たのです。

こういった種類の毒が機能する仕組みが解明されたのはこれが始めてです。まだ、臨床研究はされていませんが、この解毒剤が皮膚の壊死や傷、痛みを抑えることができるのは確実だと、研究者たちは革新を持っています。ただ、心臓への効果も解毒できるのかどうかは、今後の研究を待たねばなりません。

オーストラリアウンバチクラゲは、最も危険なクラゲです。刺されたときの経験的対処法は、患部を酢で処理するか、お湯で処理して刺胞を不活化させること。そして心臓機能を維持するために、心肺蘇生法を続けることです。

解毒剤は15分以内に処方されなければなりません。研究ではマウスに注射で与えましたが、スプレーやクリームの形で製剤することを検討しています。

解毒剤が見つかったこと自体、非常に素晴らしい発見ですが、そこで使われたCRISPRによるスクリーニングが見事に機能していたことはとても価値があります。同様の方法は他の解毒剤や、薬の探索に幅広く活用できるためです。今後、新たな薬の発見は加速するでしょう。

参考記事: Phys.Org

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