人類の脳が小型化したのは3000年前から?アリの研究でその理由を探る!

人類進化 生物学

ヒトは体の大きさにそぐわないほどの大きさの脳を進化させてきましたが、実は現代のヒトの脳の大きさは昔の人類の脳の大きさよりも小さくなっています。このことは人類進化の謎とされており、いつ頃どうして、この退化ともとられる小型化が起こったのかは謎のままです。

この謎の理解につながるような新たな研究が最近発表され、脳の小型化が起きたのはおよそ3000年前であることが示されました。また、アリを使ったモデル研究で、なぜ脳の大型化や小型化が起きたのか研究した結果、脳の小型化と人間社会における集団知の拡大が、同時期に起こったとする仮説がたてられました

脳の進化の原因と結果を研究して理解することは、人間の本質を理解する助けとなります。人類進化の歴史において、ヒトの脳が大型化していったことは、よく知られています。しかし、更新世以降にヒトの脳が小型化しているという事実はあまり歓迎されていません。この小型化が正確にいつ、どうして起こったのかはあまり良く知られていません。

「現代人類に関する事実の中で驚かされるものの一つが、私達の脳が更新世の祖先の脳に比べて小さくなっているという事実です。なぜ、私達の脳が小さくなったのか、これは人類学における大きな謎の一つであり続けています。」と、論文の共著者であるダートマス大学のジェレミー・デシルバ博士は説明してくれました。

この謎を解くために、異なる学問領域の研究者がチームを作って、ヒトの脳の進化の歴史的パターンの研究を開始し、幅広い洞察を得るために、その成果をアリの社会についてわかっていることと比べました。

「生物人類学者と行動生態学者、進化神経学者が脳の進化についての考えの共有から始めて、ヒトとアリの研究を橋渡しした研究が、自然界で可能な現象を突き止められるかもしれないことを発見しました。」と説明するのは、共著者のボストン大学のジェームス・トラニエロ博士です。

彼らの論文は、「Frontiers in Ecology and Evolution」で発表され脳の進化について新たな視点を与えてくれています。

脳の小型化は比較的最近起こっていた

研究では変化点分析が用いられ、データセットとして985個の化石と現代人の頭蓋骨のものが使われました。その結果、更新世におけるヒトの脳の増加が210万年前と150万年前に見られましたが、脳の小型化が見られたのは完新世である3000年前あたりであり、これは以前考えられていたよりも最近の出来事でした。

「人類がその体の大きさから予測されるよりも極めて大きな脳を持っていることは多くの人が知っています。長い進化史の中で、ヒトの脳は劇的に大きくなりました。3000年前のヒトの脳の小型化は予想されていなかったのです」とはトラニエロ博士。

脳の大型化のタイミングは、初期のヒト属進化とそれに付随した技術の発展、例えば、より良い食物と栄養や、社会集団の大型化と言ったものとしてこれまで知られていたことと一致しています。

脳の小型化についてはどうかというと、学際的なチームはアリの社会において手がかりを見つけて、新たな仮説を提唱しています。

アリがヒトの脳の進化について教えてくれること

ハキリアリ

Photo by MD_JERRY on Unsplash

「どうして社会生活が原因で脳の大きさが変化するのかを理解するために、私達は、多様なモデルをアリが提供してくれるということを提唱します。なぜ脳が大型化したり小型化したりするのかを理解するには、化石を使った研究だけでは難しすぎるのです。」とトラニエロ博士は説明します。

ツムギアリやハキリアリ、または普通のヤマアリといったアリの分岐群における、働きアリの脳のサイズや構造、エネルギー消費の計算モデルやパターンを研究することで、集団での認識や分業が、最適な脳の大きさの変化を選択しているかもしれないことが示されました。つまり、社会集団においては知識が共有されるか、個体がある仕事に特化することで、脳はより効率化することつまり、小さくなることで適応する可能性があるのです。

「アリとヒトの社会は非常に異なっているし、社会進化の過程も異なったものでした。それでも、アリは集団での意思決定や分業、食物の生産(農業)といった社会生活の重要な側面においてヒトと共通点があります。こういった類似点から、ヒトの脳の大きさの変化に影響を及ぼす可能性のある因子について、広く知ることができます。」

脳はたくさんのエネルギーを消費し、小さな脳ほどエネルギーを使いませんヒトの社会において知識を外在化させると、個人のものとして多くの情報を保持するためのエネルギーが少なくてすむようになり、そうなると脳を小さくするほうが好ましくなるでしょう

「脳の小型化は集団知に頼ることが多くなったためであり、ヒトの集団は集団の中で最も賢い人よりも賢いという、いわゆる『群衆の叡智』という概念を私達は提唱します」とトラニエロ博士は付け加えました。

最後に、デシルバ博士は「さらなるデータが利用可能になって私達の仮説を検証できるのが楽しみです」と締めくくりました。

脳はエネルギーを沢山消費するので、知識を外部に蓄えられるようになると、覚えるためのエネルギーが必要なくなり、小型な省エネ脳でよくなるということでしょう。未来予想として描かれた、頭部が大きくなって手足が萎えた人類というのは、正しくないかもしれません。情報はますます外部に蓄積され、脳とコンピュータが直結した未来では、ますます記憶にエネルギーは必要なくなるでしょうから。

参考記事: Phy.org

 

 

コメント