極小の線虫が子育てをするなんて考えられないかもしれません。そんなあなたに今日の雑学です。研究材料として一般的な線虫は、子孫に餌を与えるために産卵口から卵乳とでもいうべき液体を放出します。
新たな研究で、カエノラブディティス・エレガンス(C. elegans)の幼虫は、この卵乳を餌に育つと、通常の餌で育ったものよりも早く育つことがわかりました。なので、お乳で赤ちゃんを育てる哺乳類のように、新たな環境に直面したときに、次の世代が健康に育つのに役立ちます。
そして、その乳は母親の破滅的な負担によって生まれます。
C. elegansの母親は雌雄同体です。つまり、オスの生殖器とメスの生殖器を同時に持っています。C. elegansにはオスもいますが、野生では非常にまれです。
なので、交雑によって受精卵を生み出せる一方で、ほとんどの場合、母親は、オスなしで単独で受精卵を生み出します。しかし、母親が生み出せる精子の数には限界があるため、子供が生み出せなくなると、卵黄だけを生み出すような体になります。
この小さくて透明なはいまわる虫は、トータルで自分の大きさを超える、多くの卵を生み出しますが、それは無事に生まれた卵である場合もあれば、卵乳だけの排出になることもあります。しかし、それらを作り出すために、腸や筋肉を含む他の器官を溶かして再利用しているのです。
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの生物学者であるカリーナ・ケルンは、「線虫は子孫に養分を与えるために、自分の体を破壊しています。受精していない卵には多くの乳成分が含まれるので、まるで哺乳瓶のように、幼虫に餌を与える助けとなっています」と説明しています。
驚くかもしれませんが、無脊椎動物で子供のために高栄養の分泌物を生産するものは、C. elegansだけではありません。ハエトリグモやゴキブリもそうです。さらに、子供のために自分を犠牲にする動物も多く、タコやシャケなどがいます。
実験によって、ケルン博士と共同研究者たちは、卵乳を餌に育った線虫の幼虫は、そうでないものに比べてより早く育ち、途中で通常の餌である大腸菌に戻しても、同じ傾向が見られることを示しました。
母体で器官を卵に変換する仕組みを動かしている、生化学的な回路である、インシュリン様信号伝達系は、寿命を縮めることで有名です。実際、この伝達系は線虫を研究する多くの理由の中の一つであり、進化的にも、人間を含む多くの生き物の中に保存されているものであります。
科学者たちは、老化や記憶その他の謎を研究するために1960年代からこの土壌性線虫を研究してきています。研究する価値の高さから、全ゲノム配列が解明された最初の多細胞生物となりました。
ケルン博士たちは、線虫の卵乳が生産されるタイミングが、育てているペトリ皿で餌が枯渇するタイミングと同じなのではないかと考えていました。野生では、C. elegansは新しい場所では急激に増えることで征服しますが、その領域の餌である細菌を食べ尽くしてしまいます。大きなコロニーを作り、その中では産卵ラッシュや個体数爆発が起きます。
母親が餌が減少していく中で、子孫のスタートダッシュを助ければ、生き残る可能性は高まります。これは進化の観点からは、血縁選択と呼ばれています。
残念ながら、この印象的な自己犠牲が意味するのは、C. elegansの遺伝子で寿命を長くするものというのが、この自己犠牲的な自殺を行わないためである可能性があることです。
しかし、このことが線虫から老化について多くを学べなくなるという意味ではありません。研究者たちは、線虫の老化の仕組みの多くが他の生物のものと似ており、そのため、私達が直面する多くの病気への洞察を含んでいると信じているのです。
研究は、「Nature Communications」で発表され、「Frontier in Cell and Developmental Biology」でレビューされています。
参考記事: Science Alert
コメント