母乳を生産する授乳期があるのは、哺乳類の特徴です。しかし、哺乳類以外で授乳をする例が見つかりました。「Science」に掲載された論文で、中国の研究者たちがトクセウス・マグナスという種類のアリを擬態したハエトリグモが授乳したと報じています。
奇妙な共同生活
野外観察で、研究者たちはこのハエトリグモの巣を調べ、その構成が数匹の大きなクモの成体からなる場合と、一匹のメスグモの成体と数匹の子供からなる場合があることを発見しました。
これは、奇妙なことでした。というのも、このクモはコロニーを作らないと推測されていたからです。そこで、ハエトリグモが育児を行う期間が長くなっているのか、あるいは巣立ちが遅くなっている可能性が考えられました。それを確かめるために、実験を行うことにしました。
クモが母乳を出して授乳する
母グモの庇護のもと子グモがどのように成長して行動するかを、研究室と野外観察で調べたのです。すると、生まれてから20日経つまで、餌を捕りに巣を離れる子グモはいませんでした。さらに詳しく調べたところ、母クモが栄養を含む液体のようなもの(母乳)を出して、子グモに与えていることがわかりました。
トクセウス・マグナスでの母乳の分泌は、哺乳類の授乳期に似た期間に渡って、特殊な器官で起こっていました。顕微鏡による観察で、子グモが母乳を吸っている上腹部の溝から液がもれだしているのがわかりました。
子グモは、成体になる前段階(40日齢)まで母乳を吸っていました。母乳の供給を断つと、新たに生まれた子グモは成長が止まり、10日以内に死んでしまいました。つまり、母乳は子グモの初期の成長に必須であるのです。
子育てする母グモ
その上、研究者たちは、子グモが餌を捕りに出かけるようになった生後20日以降も子育てや母乳の生産が続くのはなぜかを探りました。母グモは子グモの脱皮した皮を片付けたり、巣のダメージを修復したりといった、家事を続けます。育児と母乳を両方受けた新生グモは、76%が成体にまで成長できました。
20日齢後の子グモの生存や、体の大きさ、性別比、成長期間に、授乳は影響していませんでした。しかし、母グモの存在そのものは、成体の生存率や体の大きさを保証する鍵となっていました。このように、成長の後期に老いて授乳は餌の埋め合わせをしているのです。
種の繁栄につながる性質
母グモは育児する上で、性別によって差をつけたりしないのですが、性的に成熟した後は、娘グモしか巣に戻ってくることを許しません。成熟した息子が戻ってきたら攻撃して追い払います。これは、近親交配を防いでいるものと思われます。
これらの発見は、ハエトリグモでは母親の負担が父親よりも大きいことを示していて、そこから予測されるのは、メスの比率が高くなることで、一夫多妻制と相まって、繁殖の効率が上がるということです。
今回の発見で、哺乳類だけではなく、節足動物にも母乳を出して子育てするものがいることがわかりました。こういった性質は、種を超えて進化することがあるということでしょう。子育てするクモにも愛情はあるのでしょうか?
参考記事: Phys. Org
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