ロシアが新型コロナワクチンを世界に先駆けて認可ー大規模臨床試験はスキップ

ワクチン サイエンスニュース

ロシアが、臨床試験の第3フェーズを行う前の新型コロナウイルスワクチンを承認しました。フェーズ2に関しても結果は出てないようですが、プーチン大統領はその効果と安全性に自信を持っているようです

プーチン大統領が承認の用意があることを発表したのは、8月11日の内閣会議の最中です。

最初に教師や医師への接種が行われる予定としています。

ワクチンには、世界最初の人工衛星にあやかって、スプートニクVという名前がつけられました。

認可されたワクチンがついに出てきたことは歓迎されるべきところですが、問題点もあります。

プーチン

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臨床試験の正規の手続きがとられないままに、政治主導で認可が出てしまったことです。

通常、臨床試験には3つのフェーズがあります。

少数の被験者を対象に、安全性を第一に確認し、抗体の有無を見る第一フェーズと、規模を100人程度にあげて、効果や適用量を確かめる第2フェーズ。

そして、数万人規模で試験を行い、副作用の有無と実際の病気への抵抗性を確認する第3フェーズです。

スプートニクVは第一フェーズはクリアしているものの、第2フェーズは結果が公表されておらず、第3フェーズは実行されてさえいません。

そのため、専門家の間ではその安全性と効果に疑問の声が上がっています。

新型コロナワクチンの開発は、世界各国で行われていて、すでに臨床試験に入っているものも複数存在し、中にはフェーズ3にまで進んでいるものもあります。

そんな中で、臨床試験の結果を見ず科学的根拠や安全性の確認がとれないままに、承認が通ってしまったのです。

スプートニクVワクチンとはどのようなワクチンなのでしょうか。

そもそもワクチンとは、弱毒化した病原体や類似物を接種し、免疫を獲得させることで病気への抵抗力をあげて、感染症を抑える予防法です。

スプートニクVは、毒性の少ないアデノウイルスを使った方法で作られています。

2種類のアデノウイルスに、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の遺伝子を導入して、2回に分けて接種します。

アデノウイルスによって作られたスパイクタンパク質に対して、抗体が作られることで新型コロナウイルスへの免疫を獲得するというものです。

アデノウイルスを使ったワクチンの研究は、他の感染症でも行われていますが、うまく免疫が獲得できない例もあるため、スプートニクVも成功が約束されているわけではありません。

では、臨床試験のフェーズ3を通過していないことの何が問題なのでしょうか?

例えば、1000人に1人の割合で重篤な副作用が出てくるとします。

少人数の臨床試験では、サンプル数が少なすぎて、このような頻度の低い副作用をとらえることはできないのです。

今年10月には大規模に接種が行われることになるということですが、大規模な国家的実験とでも言えるものになるかもしれません。

うまく行けば、新型コロナウイルスの流行を抑えることができるでしょう。

しかし、うまく行かなかった場合、免疫の獲得に失敗するだけにとどまらず、副作用に苦しむ人が続出するということにもなりかねません。

そうなると、一般的なワクチンに対する信頼が損なわれることになります。

日本ですぐに認可が下りることはないでしょうが、ロシアの例を受けて、政治的な判断で承認プロセスがスキップされてしまう可能性はあるかもしれません。

国民の健康に関わることなので安全を第一に考えてほしいものですが、イチかバチかでもスピードを優先するのがロシア流ということなのかもしれませんね。

参考記事: ScienceNews

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