細菌が薬になる!遺伝子を組みかえた細菌で遺伝病を治す試み

サイエンスニュース

何百万もの細菌を含んだカプセルを薬として飲むと聞くと、ゾッとする人もいるかもしれません。しかし、発酵食品などにビフィズス菌が大量に含まれていることを知っていれば、抵抗のない人たちもいるでしょう。では、その細菌の遺伝子が人為的に組み換えられていたとしたらどうでしょうか?

マサチューセッツ大学に拠点をおく、バイオ企業Synlogicは、遺伝病であるフェニルケトン尿症の治療に使える遺伝子組み換えを行った細菌を研究・開発しています。この細菌は、フェニルケトン尿症の人が持っていない酵素の遺伝子を持っており、機能を補完することによって、治療をもたらすと言います。

遺伝病フェニルケトン尿症とは

多くの遺伝病では遺伝子に突然変異が入ることで、成長や発生、生体機能に必須の物質を作れなくなっています。病気によっては、その治療に合成した必須物質を投与するという方法が取られます。フェニルケトン尿症(PKU)もそういった遺伝病の1種で、タンパク質の分解に関わる酵素がないことで起こります。この酵素がないことで、有毒な化学物質が血流に乗って広がり、脳に恒久的なダメージを引き起こすことがあります。

治療は難しくありません。タンパク質の少ない食べ物を選んで食べるようにすれば良いのです。しかし、一生涯食べるものすべてを吟味しなければならない人生を送ることがどれほど大変か想像できるでしょうか。

研究者たちは、この病気を根本から治療するために、遺伝子編集を施す治療法の開発に取り組んでいますが、やはり、現在の技術では、意図しない変異が導入される危険などが取り除けていません。

Photo credit: NIAID on Foter.com / CC BY

そこで、誰の腸にも潜んでいる細菌の遺伝子を組み換えて導入するという新しい方法が現在開発されています。これなら、人のゲノムを操作する必要がありません。Synlogic社は、治療に役立つ遺伝子を腸に普通に生息している細菌に導入するという方法での治療法を臨床段階にまで進めています。腸内細菌による治療という新たな治療法の実現が近づいているのです。

腸内細菌の遺伝子組み換え

私達の腸内には何兆もの細菌が住み着いており、食べ物の消化やビタミンの生成、免疫システムの教育などの役に立っています。これらの細菌には何百万もの異なった遺伝子が含まれていて、その数は人間のゲノムに含まれる遺伝子の数を凌駕しています。その比率は150倍です。うまく利用すれば私達の健康に役立てることができるでしょう。

Synlogic社の研究者たちが選んだのは、その中でも無害であることが確認されている、大腸菌の一種でEscherichia coli Nissle 1917と呼ばれる系統です。この大腸菌をベースにして遺伝子組み換えを行い、SYNB1618と名付けたスーパー細菌をPKUの患者の治療のために作りました。

研究者たちが大腸菌に組み込んだ遺伝子は3種で、タンパク質を構成しているアミノ酸の1つ、フェニルアラニンを安全な代謝物であるフェニルピルビン酸に変える働きを持っています。フェニルアラニンの量が低ければ、PKUの患者に症状は現れず、通常の暮らしを続けることができます。

安全性に問題はないの?

問題があるとすれば、この細菌が遺伝子組み換えを受けていることです。GMフードに対しても拒絶反応を示す人がいるのに、ましてやそれを人の腸に送り込むなんて怖いというわけです。しかし、遺伝子組み換え作物同様、治療用細菌に対しても、FDAの厳しい制限が存在します。

SYNB1618について言えば、この細菌には成長に必須な物質を生産する能力が人為的に除かれています。それによって、コントロールされた環境外では生きていくことができなくなっています。その必須物質を与えなければ、細菌は死に絶えてしまうのです。実験では、マウスにSYNB1618を与えて、必須物質を与えないようにしました。すると、48時間後、マウス内のSYNB1618が全て死に絶えることが確認されています。

効果はあるの?

では、効果の程はどうなのでしょうか。まず、研究室内でこの大腸菌がフェニルアラニンをフェニルピルビン酸に変化させることが確認されました。次に、マウスで実験を行い、PKUをもったマウスがSYNB1618を腸内に持つことで、血中のフェニルアラニン濃度が下がることが確認されました。また、猿でも実験がおこなわれ、フェニルアラニンの減少が確認されています。現在、Synlogic社は、臨床試験の第1段階を行っており、人への応用の研究に踏み込んでいます。

Photo on Foter.com

同様の遺伝子組み換え細菌を使った治療法は、糖尿病やガン、炎症性腸疾患の炎症レベルの監視といった応用にも期待できます。

遺伝子編集技術を人のゲノムに適用するのはまだ時間がかかるでしょう。しかし、腸内細菌を使ったこの方法だと、進んだバイオテクノロジーの力を問題なく治療に役立てることができるように思えます。今までにない新しい治療法の形が示されたことで、遺伝病の治療に新しい光明が見えてきましたね。

参考記事: The Conversation

コメント