新しい薬を見つけることは、「ドラッグディスカバリー」と呼ばれていて、大量のお金と時間のかかる仕事です。しかし、機械学習と呼ばれる人工知能を使うことで、この過程を大幅に短縮し、数分の1の予算で行えるようになるかもしれません。
元記事の著者と共同研究者たちは、これまでにこの技術を使って、老化や老化と関連する病気の進行を遅らせる、セノリティクスと呼ばれる薬の有力な候補を3つ見つけています。
セノリティクスは、老化細胞を排除することで機能します。老化細胞は「生きて」いる(代謝活動のある)細胞ですが、増えることができなくなっている細胞で、「ゾンビ細胞」とも呼ばれています。
複製ができなくなるということは、悪いことというわけでもありません。これらの細胞がDNAにダメージを受けた場合、例えば、皮膚の細胞が日光でダメージを受けたとすると、複製されないことでDNAの損傷を受けた細胞は広がりません。
しかし、老化細胞はいつも良いものというわけでもありません。老化細胞は炎症を起こすたんぱく質の混合物を放出するので、周りの細胞に炎症が広がります。一生を通じて私たちの細胞は、紫外線や化学物質への暴露といったものからの集中的な攻撃に苦しんでいるので、このような細胞というのは蓄積していきます。老化細胞が増加するということは、2型糖尿病、新型コロナウイルス感染症、肺線維症、関節炎、がんといった様々な病気が引き起こされる可能性を持ち続けるということになります。
実験室で行われたマウスの研究では、セノリティクスを使って、老化細胞を除去すると、老化に関連した病気を改善することができることが示されています。この薬を使うと、ゾンビ細胞だけを殺して、健康な細胞だけを生かすことができます。
80種類のセノリティクスが知られていますが、ヒトに対して試験が行われたものは2種類しかなく、それは、ダサニチブとケルセチンの組み合わせです。いろいろな病気に対して使える、さらなるセノリティクスが見つかれば素晴らしいことです。しかし、薬を市場に出すには、10年から20年の時間と何十億ドルもの資金がかかります。
5分間の結果
元記事の筆者と共同研究者は、エジンバラ大学や、スペインのサンタンデールにある、スペイン国立研究評議会IBBTEC-CSICに所属していて、機械学習のモデルを訓練して、新たなセノリティクスの候補を見つけることができるのかどうかを確かめたいと考えました。
そのために、既存のセノリティクスとセノリティクス以外のサンプルをAIモデルにデータとして与えました。AIモデルはその二つを見分けるように学習し、そのモデルがまだ見たことのない分子がセノリティクスであるのかどうかを予想するために使うことができました。
機械学習の問題を解くにあたって、普通我々は、最初に、いろんな種類の異なるモデルでデータをテストして、モデル間での優劣があるのか調べます。最も能力の高いモデルを決めるため、テストの前に、利用できる訓練用のデータを少し分けて置いて、トレーニングが終わるまで、モデルから見えないようにしておきます。そして、このデータを使って、トレーニングしたモデルがどれくらいのミスを犯すのかを定量化します。そして、ミスの最も少なかったモデルを採用します。
彼らのモデルの中で最も優れたものを決め、薬の候補予測をするのに使いました。4,340の分子をデータとして与えると5分間の処理の後、結果のリストが出力されました。
このAIモデルは、セノリティクスである可能性が非常に高いと思われる、21個の高スコア分子を同定しました。もし、研究室でデータのもとになった4,340の薬剤を試験したとすると、少なくとも2~3週間の集中した実験が必要で、薬剤を買うだけでもおよそ900万円かかり、それには実験機材やその調整にかかる費用は含まれていません。
それから、これらの候補薬剤で、健康な細胞と老化細胞の2種類の細胞のテストを行いました。その結果、21の薬剤のうち、3つ(ぺリプロシン、オレアンドリン、ギンゲチン)が、老化細胞を殺し、通常の細胞の多くを生かしたままにすることがわかりました。これらの新種のセノリティクスが、体内でどのように働くのかを調べるためにさらなる実験が行われました。
詳細な生物学的な実験の結果、3つの薬剤の中の1つ、オレアンドリンが、他の既存のセノリティクスの中でも効果の高いものに比べて、より効果の高いものであることがわかりました。
今回の学際的な手法(データサイエンス、化学者、生物学者)が持つ潜在的な影響は巨大です。質の高い十分なデータが与えられたとすると、化学者や生物学者が病気の治療法、特に需要が満たされていないもの、を発見するための素晴らしい研究をAIモデルが加速ことができます。
老化細胞への効果が確認できたので、これらの3つの候補について、ヒトの肺組織を使って実験を行っています。そして、今後2年以内に、次の結果を報告したいと、筆者らは語っています。
参考記事: The Conversation written by Vanessa Smer-Barreto
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