天然物と同じようにふるまったうえで付加的な機能も持つ人工赤血球が作られる

赤血球 医学

人工赤血球を作る試みがなされていますが、柔軟性や酸素の供給、長い持続時間といった天然の赤血球の持つ特性を備えた人工赤血球の作成が成功しました。その上、赤血球が持たない機能も付加することができたのです。

輸血用の血液を安定供給するのは大変なことです。

善意の提供に頼っており、保存も難しく感染症の危険性もあります。

人工的に血液の機能をもった人工赤血球が作られれば、こういった問題も解決できます。

更には人工赤血球に付加機能をつけて、病気の予防や治療に役立てられるかもしれません。

これまでにも、人工赤血球は作られていますが、その機能は天然の赤血球の機能のうち、1つか2つを模倣するものでしかありませんでした。

今回、「ACS Nano」で発表された研究で開発された赤血球は、天然の赤血球の能力をすべて兼ね備えており、さらには、付加的な機能まで実現しています。

赤血球の機能

酸素と赤血球赤血球は肺で酸素を受け取って、体のすみずみまで運ぶ働きを持っています。

赤血球は円盤のような形をしており、その中には酸素と結合できる分子である、鉄分を含んだヘモグロビンが数百万も含まれています。

赤血球はとても柔軟にできていますが、それは細い毛細血管内を体を絞って通りぬけ、再び戻ってきたときに元の形に復元するためです。

赤血球の表面にはタンパク質が含まれていますが、これは免疫細胞に攻撃されずに長い間循環するのに必要です。

こういった赤血球の特徴をすべて兼ね備えた人工赤血球を作るために研究がおこなわれたのですが、その結果さらに、薬剤の輸送や磁力による標識、毒物検出などの付加機能まで実現できたのです。

人工赤血球の作り方

研究者たちは人工赤血球を作るために、まず、提供された人の赤血球を薄いシリカの膜でコーティングしました。

次に、このシリカと赤血球の複合体を、プラスとマイナスにそれぞれ荷電したポリマーの層で覆い、シリカをエッチングで取り除きました。

こうしてできた模造赤血球の表面を、赤血球から分離した膜で覆って完成です。

出来上がった人工赤血球は大きさと形、荷電と表面タンパク質が天然の赤血球とそっくりです。

毛細血管を模した管を体を絞りながら通り抜けても、形は崩れませんでした。

マウスの体内で、この人工赤血球は48時間に渡って生き残ることができ、その際、検出できるような毒性は現れませんでした。

研究者たちはさらに、この人工赤血球にヘモグロビンや抗がん剤、毒センサー、磁性体のナノパーティクルを持たせ、運ぶ能力があることを示しました。

そのうえ、この新しい人工赤血球が細菌性の毒素に対して、おとりになれることを示しています。

今後は、医療での応用法を研究するということで、がんの治療や毒素の検知などに使えないか調べるということです。

今回の方法では、型を作るのに本物の赤血球が必要となるうえ、表面の膜は赤血球のものを使うため、人工赤血球を作るために多くの血液が必要となってしまいます。

そのため、実用するためには、大量生産のための工夫が必要となるでしょう。

ただ、赤血球の機能を満たした物ができたのは初めてのことであり、更に機能を付加できることもわかったことは大きいと思います。次の一歩への大きな足がかりとなるでしょう。

参考記事: Science Daily

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