ワクチンの効かない致死性ウイルスを排除!遺伝子編集した免疫細胞による治療法

B細胞イメージ サイエンスニュース

遺伝子編集で抗体を組み込んだ免疫細胞が機能し、致死的ウイルスを排除することに成功

ワクチンの効かない致死性の高いウイルスから私達を守るための新たな方法が見つかったかもしれません。効果的な抗体を生み出せるように遺伝子改変した免疫細胞によって、肺に感染して死をもたらすウイルスからマウスを守ることに成功しました。ワクチンの効かないウイルスに対する治療法として、人間でも使える可能性があります。研究は「Science Immunology」で発表されました。

ワクチンの限界

ワクチンは通常、無毒化した微生物やその分子断片を使って行います。これらの断片はB細胞として知られる抗体を作る免疫細胞を刺激し、病原体に対抗する抗体を作らせます。しかし、ワクチンを受けた人すべてが、抵抗力を獲得できるわけではありません。出来た抗体がうまく働かない人も中にはいるのです。また、ワクチンを作ることの出来ない病原体もあります。たとえば、HIVや、免疫系が弱い人や子供の肺に感染するRSウイルスなどはワクチンを作れません

ワクチンによる免疫

Photo credit: NIAID on VisualHunt.com / CC BY

ワクチンの効かないウイルスの抗体を免疫細胞に作らせる

フレッド・ハンチンソンガン研究センターが行った新たな研究では、RSウイルスに対して効果的である抗体を、B細胞を遺伝子操作して作らせることができるのかどうかがテストされています。

まず、CRISPRゲノム編集技術を使って、マウスのB細胞の抗体遺伝子の一つを切断。次に、RSウイルスに対抗する抗体をウイルスに持たせて細胞内に導入しました。導入された遺伝子は、切断されたDNAの部位に移動して働き、B細胞は抗RSウイルス抗体を大量に作り始めました

同様の方法で、ヒトのB細胞を刺激して、HIVやインフルエンザウイルスなどの3種類のウイルスに対する抗体を生み出すことに成功しています。操作された細胞の実に60%が抗体を作ったといい、同種の研究と比べても高い効率を達成しています。

遺伝子操作されたB細胞が生体内で機能した

遺伝子操作によって抗体を作るようになったB細胞に、感染症を防ぐ能力があるかどうかを確かめるために、マウスにこのB細胞を注射して、RSウイルスに感染させました。5日後確認したところ、比較対象群のマウスには感染が確認されたのに対して、操作したB細胞を移植されたマウスの肺にはRSウイルスは見つかりませんでした

元気なマウス

Credit: いらすとや

また、免疫系に異常があり機能していないマウスに操作したB細胞を移植したところ、85日後にはウイルスを排除することができました。

HIVにはワクチンは存在しません。しかし、効果的な抗体を自然に生み出せる人も少数ですがいます。その抗体を利用することができれば、HIV感染を防ぐことができるでしょう。ワクチンの効かない他の感染症に対しても、抗体を変えることで遺伝子操作B細胞は対応できる可能性があります。

将来的には、操作したB細胞による予防が、ワクチンに取って代わるかもしれません。ただ、まだヒトでの臨床試験はされていませんし、もし出来たとしても費用がかかりすぎるという問題もあります。一般の人が、遺伝子操作したB細胞による予防を受けるのはまだ先の未来の話でしょう。とはいえ、この研究は医学にブレイクスルーをもたらした重要な研究であることに変わりありません。感染症の無い未来は確実に近づいています。

参考記事: Science

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