薬を合成するために、遺伝子操作を行った酵母が使われることがあります。新たな研究で、太陽電池に使われる半導体物質を身にまとうことで、化学合成の効率が圧倒的に改善した酵母が開発されました。その効率はなんと4倍です。研究はハーバード大学の技術者によって行われ、“Science”誌に掲載されています。
Light-driven fine chemical production in yeast biohybrids
http://science.sciencemag.org/content/362/6416/813
原理実証のために行われた実験で、酵母が合成したのはシキミ酸。多くの薬や化学物質の合成に不可欠な化合物です。使われた酵母はサッカロミセス・セレビジエという種類で、食品加工によく使われる馴染みのものです。研究が非常に進んでいて、遺伝子操作も比較的簡単にできます。
遺伝子操作による生合成において、もっと大きな化合物合成のボトルネックとなっていたのが、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)です。電子を受け渡す能力を持っています。
新たな研究で、NADPHの代わりに電子を担うものとして注目されたのが、太陽電池に使われる半導体、リン化インジウムでした。先行研究が、2016年にUCLAバークレー校行われていて、硫化カドミウムのナノ粒子を使って、酢酸合成のためのエネルギーを供給することに成功しています。今回リン化インジウムを使ったのは、硫化カドミウムに比べて毒性が低いため、より使い勝手がいいからです。
研究者たちは、リン化インジウムのナノ粒子をポリフェノールでコーティングしました。酵母にくっつきやすくするためです。酵母自体はもともと、シキミ酸を過剰生産するように遺伝子操作されています。しかし、リン化イリジウムがくっつき、光が当てられると、その生産量はさらに3倍から4倍にも増えたのです。
光を当てなかったり、細胞にナノ粒子をつけなかったりすると、この増加は見られませんでした。このことから、半導体が光に反応して電子を供給し、生産量を上げたことがわかります。
この技術は、他のNADPHを必要とする合成でも応用が可能であるといいます。例えば、モルヒネやコデインのような薬の元となるベンジルイソキノリンの合成などです。この合成にはもっと多くのNADPHが必要となるので、効果はもっと大きいでしょう。
太陽電池と酵母。なかなか思いつかない組み合わせですが、タッグを組むことで、薬の合成に飛躍的な一歩をもたらしました。材料技術とバイオ技術の強力タッグはこれから増えてくるかもしれませんね。
参照記事 The Scientist
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