それでは質問です。AがBより大きく、BがCよりも大きい場合、AとCはどちらが大きいでしょうか?この質問に答えるためには三段論法を用いる必要がありますが、そのような用語を知らなくても、誰でもわかるでしょう。人間であれば。
人間以外の動物でも、このような問題を解くことができる能力を持つものがあり、その能力は、「推移的推論」と呼ばれています。しかし、脊椎動物以外でこの能力を持つものは、今まで知られていませんでした。新しい研究で、アシナガバチに推移的推論の能力があることが明らかになりました。計算能力が証明されているミツバチにさえ、この能力はありません。研究は「Biology Letters」で発表されています。研究を行ったのは、ミシガン大学の進化生物学者エリザベス・ティベッツです。
ランク付けされた色を使ってハチに比較させる実験
実験に使われたのは、ヨーロッパアシナガバチ含む2種です。研究では、ランクづけされた5種類の色が使われました。そのうち2つをペアにして、推論の前提ペアとしてアシナガバチに提示しています。
A色とB色のペアが提示された時、Bの方にアシナガハチが止まると、弱い電気刺激を受けることになります。B色とC色の場合は、C色に止まった時に電気刺激が与えられます。CとDだとDです。このように、アルファベットの順番が先の色に止まった時、電気刺激を受けることを体験させました。
それから、まだ経験していない組み合わせ、例えばBとDの組み合わせを提示したところ、驚きの結果を示しました。まだ、体験していない組み合わせにもかかわらず、電気ショックを受けないBを好む傾向を示したのです。電気ショックを受けなかった頻度は、3分の2であり統計的に偶然であるとは考えられません。
この結果から、まだ経験していない組み合わせに対して、今までに経験した組み合わせを元に推論して色のランクを予想していることが示唆されます。
アシナガバチの持つ複雑な社会が関係している?
ティベッツ博士は最初、先行研究のミツバチの場合同様に、アシナガバチが判断に際して混乱すると予測していました。しかし、アシナガバチは安全な色を選ぶ際に、正しい推測を行えることを証明しました。ミツバチとアシナガバチの神経系の広がりには大きな違いがありません。そのため、どうしてこのような能力の違いがあるのかは、謎です。
この謎をとく鍵と考えられるのは、その社会の違いです。ミツバチにおいては、子を生む女王蜂は1匹であり、他の働きバチにランクはない比較的単純な社会です。一方、アシナガバチのコロニーにはもっと複雑な社会があります。産卵できるメスが1匹ではなく複数いて、互いに競争しあっているのです。その結果、ハチの間に階層が生まれます。
そのような社会では、階層の順位を知っていることは個体にとって益があります。そのため、順位を推理する能力を持つことには意味があるのです。
この説明はまだ、明確な証拠を持たない仮説にすぎません。今後の研究で、今回の実験の結果がどのような意味を持つのか明らかにしていかなければなりません。しかし、アシナガバチが2つの事実を結びつけて、正しい推論をするという驚くべき能力を持つことは事実でしょう。
ミツバチが昆虫界の数学者なら、アシナガバチは名探偵といったところでしょうか。神経細胞の数が限られた昆虫が、このように高度な認知能力を持つことは驚きです。ハチにはまだまだ、知られていない能力が隠されているかもしれませんね。
参考記事: Science Alert
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