ヒトの脳を進化させた遺伝子をサルに組み込んだらサルの脳も大型化!

生物学

ヒトにだけ存在する、大脳新皮質を大型化させる遺伝子を、小型のサルであるコモンマーモセットに導入した結果、胎児段階のサルの脳が大型化していました

ヒトの大脳新皮質の大型化は、ヒトの特徴である高い推論能力や言語能力といった認知機能の進化と密接に関わっています。

ARHGAP11Bと呼ばれる遺伝子は、ヒトにしか存在しない遺伝子で、脳の神経幹細胞から更に多くの神経幹細胞を増やす働きがあり、この遺伝子のおかげで脳が大型化します。

先行研究では、この遺伝子をマウスやフェレットで無理やり大量に発現させていて、その結果大脳新皮質の大型化が確認されています。

しかし、霊長類の進化においてこの遺伝子が関わっていた可能性については依然わかっていませんでした。

マーモセット

Photo credit: foilman on Visual hunt / CC BY-SA

ドイツのマックス・プランク研究所と日本の実験動物中央研究所、そして慶應義塾大学が協力して行った今回の研究では、サルの一種であるコモンマーモセットでARHGAP11B遺伝子を通常量発現させ、胎児の段階での大脳新皮質がどうなるかを観察しました。

すると、胎児の大脳新皮質は大型化し、ARHGAP11B遺伝子によって人類の進化がもたらされた可能性が支持される結果となりました。

研究結果は、科学誌「Science」で発表されています。

人間にしかない遺伝子

大脳新皮質は進化の上で最も新しい脳の部位ですが、人間の大脳新皮質は最も人間に近いとされるチンパンジーの大脳新皮質の実に3倍の大きさがあります。

大型化した大脳新皮質は、頭蓋骨内部の限られたスペースで大型化するために、シワを作って折りたたまれています

なぜ、ヒトの大脳新皮質が大型化したのかというのは科学者にとっても大きな謎でした。

2015年に発表された研究で、ヒトにしか無いARHGAP11B遺伝子をマウスの胚に作用させたところ、神経の元になる細胞が増加し、もともとシワのできない大脳新皮質にシワができました。

この研究により、ヒトの大脳新皮質の進化的な大型化にARHGAP11B遺伝子が重要な働きをしていることが示唆されたのです。

ARHGAP11B遺伝子は、広く存在している遺伝子であるARHGAP11A遺伝子の重複遺伝子として現れました。

ネアンデルタール人やデニソワ人、現代のヒトへと連なる系譜の中で、チンパンジーと別れたおよそ500万年前に現れたとされます。

2016年の研究では、ARHGAP11Aに見られない47個からなるアミノ酸配列が、脳の幹細胞の増加に関わっていることがわかりました。

その違いはたった一つのDNA塩基配列の違いなのですが、遺伝子を読み込む際のフレームシフトをもたらし、その結果、47個の機能的に重要なアミノ酸配列となったのです。

たった1箇所の変異というのはよく起こることなのですが、このように進化的に大きな違いをもたらすものは非常にまれです。

ヒトにしか無い遺伝子がサルにもたらす効果

サル

Peter FischerによるPixabayからの画像

しかし、ヒトにしか存在しないARHGAP11B遺伝子が、本当にヒト以外の霊長類でも大脳新皮質の大型化をもたらすのか、わかっていませんでした

そこで、研究に使用されたサルであるコモンマーモセットへの遺伝子導入の技術をもった日本の研究所と協力して研究が行われたのです。

論文の筆頭著者であるポスドクのマイケル・ハイデ博士は、日本を訪れて共同研究を行っています。

コモンマーモセットにはもともと存在していないARHGAP11B遺伝子を導入して、大脳新皮質の成長を観察したのです。

ただ、日本にもドイツにも動物実験における厳しい倫理規定があります。

ヒトの遺伝子を導入した実験動物を育てるわけにはいかず、出産50日前の101日齢の胎児の脳が観察されたのです。

その結果、実際に脳は大きくなり、脳の表面にはシワができ、皮質の層は分厚くなっていました。

現在研究者たちは、ARHGAP11B遺伝子が実際にどのような仕組みで霊長類の脳を大型化させているのかを調べています。

ARHGAP11Bは人類に知恵をもたらした知恵の実なのでしょうか?

知恵の実を食べたサルがどれほど賢くなるのか、猿の惑星のように文明が持てるほど進化したサルが生まれるかもしれません。

しかし、倫理的な問題もあるため、技術的にはできても社会的には実現は困難でしょう。しかし、国によっては、やってしまうところもあるかも?

参考記事: Science Daily

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