アルツハイマー病が進行する原因をヒトの脳で特定することに成功!

認知症 医学

ヒトの脳のデータを使った初めての研究で、アルツハイマー病を進行させる複数の過程の進行速度が定量化されたことにより、病気の進行が今まで考えられていたのとはまるで異なる方法で起こっていたことが明らかになりました。この結果は、将来の治療法の開発に向けた重要な手がかりとなるでしょう。

ケンブリッジ大学に率いられた国際研究チームによって、アルツハイマー病は脳の一点から始まって脳細胞死の連鎖反応が広がっていくのではなく、脳の異なる領域には早い段階で広がっていることがわかりました。広がった領域で、毒性のあるタンパク質の塊による神経細胞の死がどれだけのスピードで起こるのか、ということの方が、病期の進行そのものが進むスピードを制限しているのです。

研究者たちは、アルツハイマー病の初期段階から症状の重くなった患者までの死後の脳サンプルと、生きた患者のPET検査の画像を使って、病気の鍵である2つのタンパク質の一つ、タウ蛋白質の蓄積を追跡しました。

アルツハイマー病では、タウとアミロイドβと呼ばれるもう一つの蛋白質がもつれ合ってアグリゲートと呼ばれるプラークを作り、脳細胞の死を引き起こし、脳は萎縮していきます。これにより記憶の喪失や性格の変化、生活遂行能力の困難が生じます。

5つの異なるデータセットを組み合わせ、それらを同じ数理モデルにかけることで、アルツハイマー病の進行率をコントロールしているのは、それぞれの場所でアグリゲートを複製する仕組みであって、異なる場所へとアグリゲートを転移させるものではないことが観察されました。

Science Advances」で発表された研究結果は、アルツハイマー病や他の神経変性病の進行についての理解を深める新たな道を開き、将来的な治療法の開発につながる新たな道を示しました。

長年、アルツハイマー病へと至る脳内過程は、カスケードや連鎖反応といった用語を使って語られていました。研究するには難しい病気であるのは、進行に何十年もかかる病気であることと、死後の脳組織の生検によってしか診断が確定しないからです。

何年もの間、研究者たちはこの病気の研究の大部分をモデル動物に頼ってきました。マウスによる研究結果では、毒性のある蛋白質の集団が脳の異なる部分に広がることから、アルツハイマー病は早く広がることが示唆されていました。

「アルツハイマー病の進行は多くのがんと似たような過程で進むと考えられて来ています。つまり、アグリゲートがある一箇所で形成されてから、脳全体に広がるというふうにです」と論文の筆頭著者であるケンブリッジ大学のゲオルグ・メイスル博士は言います。「しかしそうではなく、私達が見つけたのは、アルツハイマー病が始まったときにはすでに脳の多くの部分にアグリゲートが広がっているということです。そのため、拡散を止めようとしても、病期の進行を遅らせる効果はすくないのです。

今回の研究では始めて、アルツハイマー病の進行を全面的に調整している過程がどれであるのかを追跡するためにヒトのデータが使われました。最近の10年間でケンブリッジ大学で開発されたケミカルキネティクスアプローチにより、アグリゲーションの過程と脳内での転移をモデル化できるようになったことと、PET検査や他の脳検査の感度が改善されたことによって、この研究は可能となりました。

「不完全な動物モデルではなく、ヒトのデータを使って研究する価値をこの研究は示しました」と共同責任著者のトーマス・クノール教授は述べています。「この分野の発展を見るのはエキサイティングです。15年前、基本的な分子機構は、試験管の中の単純な系で決定されていました。しかし今、私達は、実際の患者の中で分子レベルでの過程を研究できます。これはいつの日にか治療法が開発されるための重要な一歩なのです。」

研究者たちは、タウアグリゲートの複製が、5年間ほどと驚くほど時間がかかることを発見しています。「神経はアグリゲートの形成を驚くほど巧みに止めています。しかし、効率的な治療法を開発するのであれば、それをもっと良くする方法を見つけなければなりません」と他の共同責任著者であるケンブリッジ大学イギリス認知症研究センターのサー・デビッド・クレナーマン教授は述べています。「タンパク質のアグリゲーションを止めるために生物学がどれだけ進化したのか、うっとりさせられます。」

研究者たちは、彼らの方法は、病気が進展する段階で起こる最も重要な段階を標的とすることで、世界中で4400万人とも推定されるアルツハイマー病患者の治療法を開発する助けとなる事ができるといいます。さらには、彼らの方法は、パーキンソン病のような他の神経変性病への応用も可能でしょう。

「重要な発見は、アグリゲートの転移よりもアグリゲートの複製を止めることが、発症段階ではより効果的であるということです。」とクノール教授は言います。

研究者たちは、病期の進行の初期段階を見ることを現在計画しており、また、研究を、前頭側頭型認知症、外傷性脳損傷、進行性核上性麻痺といった病気の間にタウアグリゲートが見られる他の病気にも広ける計画です。

未だに治療法のないアルツハイマー病ですが、この研究により治療の標的として効果的な過程が見つかりました。アルツハイマー病の兆候が見られる頃には、タウは脳の広い範囲にすでに広まっているため、広げることを妨げるよりも、広がった毒性のあるタウのアグリゲートの複製を止めることのほうが効果的ということです。

参考記事: Medical X press

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