コンドロイチン6硫酸で記憶力がよみがえる!【マウス実験】

老人 医学

ケンブリッジ大学とリード大学の研究者たちが、マウスを使った実験で老化に伴う記憶力の低下を回復することに成功しました。研究者たちによると、この発見は、ヒトの老化に伴う記憶力低下を防止する治療法の開発に結びつくということです。

Molecular Psychiatry」に掲載された最新の研究で、神経を取り囲む「足場」である、脳の細胞外マトリックスにおける変化が、老化による記憶力の低下の原因であり、遺伝子治療を行うことで、この記憶力の低下を巻き戻すことが可能であることが示されました。

近年、ペリニューロナルネット(PNNs)の役割が、脳で学習や適応、そして記憶の形成に関わる神経の可塑性に関わるものであるという証拠が示されてきました。PNNsというのは軟骨様組織で、脳においては、抑制系の神経の多くを取り囲んでいます。主要な役割は、脳の可塑性のレベルを調整することです。ヒトにおいては5歳児の頃から現れ、脳内部での接続の最適化が起こる可塑性が加速する時期を終わらせます。すると、可塑性は部分的になくなり、脳はより効率化される一方で、柔軟性はなくなります。

神経

Colin BehrensによるPixabayからの画像

PNNsはコンドロイチン硫酸として知られる混合物を含みます。その一つが、コンドロイチン4硫酸のようなもので、神経活動を抑えて、神経の可塑性を阻害します。他にも、コンドロイチン6硫酸のようなものがあり、神経の可塑性を増加させます。私達が歳をとってくると、これらの混合物のバランスが変化し、コンドロイチン6硫酸の割合が減ってくるとともに、学習能力や新たな記憶を形成する能力が変化することで、老化に伴う記憶力の低下が起こります

ケンブリッジ大学とリード大学の研究者たちは、PNNsのコンドロイチン硫酸混合物を操作することで、神経可塑性が復活して年齢による記憶力の低下が緩和されるのかどうかを調べました。

そのために、研究チームは、高齢と考えられる20ヶ月齢のマウスを使って、これらのマウスが6ヶ月齢マウスと比較して記憶力の低下が見られるかをテストで示しました。

入り口のネズミ

Basker DhandapaniによるPixabayからの画像

例えば、あるテストではマウスがある物体を認識できるかどうかが確かめられています。マウスはY字型の迷路の入り口に置かれて、その中を自由に探索し、2つの通路の末端に置かれた別々の物体と接触します。そのすぐ後で、マウスは再び迷路に置かれますが、今回置かれるのは、1つの通路では1回目と全く異なる物体で、もう1つの通路では1回目の物体とそっくりなコピーが置かれます。研究者たちは、マウスがそれらの物体を調べるのにかかった時間を記録して、最初の探索で調べた物体の記憶を思い出したかどうかを決めました。高齢のマウスほど、物体を覚えていることがずっと少ないと言う結果でした。

研究チームは高齢のマウスに「ウイルスベクター」を使って、PNNsの中のコンドロイチン6硫酸の量を再構成しました。その結果、高齢マウスの記憶力は完全によみがえり、若いマウスで見られるものと似たレベルにまで回復しました。

リード大学の生物医科学部のジェシカ・クォック博士は、「高齢マウスにこの治療を施したときに見られた結果は驚くべきものでした。記憶力と学習能力は、もっと若いときにしか見られなかったレベルにまで回復したのです。」と述べています。

記憶力低下におけるコンドロイチン6硫酸の役割を調べるため、研究者たちは、老化した状態を模倣するレベルにまでこの混合物の量が抑えられるように遺伝学的に操作されたマウスを作って育てました。すると、わずか11週間齢のマウスにも早い段階での記憶力の低下が見られました。しかし、ウイルスベクターを使ってコンドロイチン6硫酸のレベルを増やすと、記憶力や可塑性が健康なマウスと似たレベルにまで回復しました。

ケンブリッジ大学のジョン・ヴァン・ギースト脳修復センターのジェームス・ファウセット教授は次のように述べています。「この研究の素晴らしいところは、私達の研究はマウスにとどまってはいますが、同じ仕組みがヒトでも働いているはずであるということです。ヒトの脳でも同じ分子や構造が、げっ歯類と同じようにあるのです。つまり、ヒトの高齢による記憶力低下を抑えることができるかもしれないのです。」

研究チームはすでに候補となる薬も見つけており、ヒトへの使用についてライセンスを得ています。それは、口から服用することで、PNNsの形成を阻害します。マウスやラットにこの薬を服用させたときには、老化による記憶力低下を回復することができ、脊椎の損傷を回復させることもできました。研究者たちは、現在、この薬がアルツハイマー病のモデル実験動物における記憶力低下を抑えることができるかを研究しています。

コンドロイチン6硫酸はサメの軟骨などに含まれる物質で、関節にいいとしてサプリメントなども販売されています。それを飲むことで記憶力が改善されるかはわかりませんが、同じ物質が神経の可塑性を復活させるというのは本当のようです。同時に薬も見つかっているようなので、老化による記憶力の低下は、将来治るものになるかもしれませんね。

参考記事: Science Daily

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