UCSFの研究者たちがCRISPR-Cas9遺伝子編集技術を使って、免疫システムに対して「透明」になる万能細胞を作ることに成功しました。研究は実験室レベルのものですが、幹細胞移植による治療で拒絶反応を抑えられることが示されたのです。
このような万人に使える幹細胞は、各々の患者に合わせた幹細胞を作るよりも効率が高く、再生医療がより現実に近づくものとなります。論文は、「Nature Biothechnology」に掲載されています。
論文では、「科学者たちは、成人のどのような細胞にもなれる万能幹細胞の治療能力を過度に強調しますが、免疫系が幹細胞療法における安全性と効果に対する障害となっています」と述べられています。
免疫系は容赦をしません。外部の物と認識したすべてを排除するようにプログラムされており、病原体やその他の侵入者といった放っておくと、壊滅的な影響をもたらすものから、身体を守っています。しかし、臓器や細胞の移植による治療では、その性質が問題となります。移植されたものは危険な異物であると、免疫系には見えるため、免疫系による様々な防御反応がひどい拒絶反応として現れるのです。
幹細胞移植の分野では、成熟した細胞から作られる誘導多能性幹細胞(iPS細胞)によって拒絶反応の問題はなくなると、かつては考えられていました。iPS細胞は皮膚や脂肪といった細胞が再プログラミングされ、身体の組織や器官を形作るあらゆる細胞に分化できるようになった細胞です。もし、自分自身から分離して作られたiPS細胞から誘導された細胞をその患者に移植した場合、移植された細胞は「自分」であると身体は認識するはずで、免疫による攻撃はないはずです。
しかし、実際の現場では、iPS細胞を臨床で使った場合拒絶反応が起こることが証明されています。その理由はわかっていませんが、多くの患者の細胞が再プログラミングされた細胞を受け入れませんでした。そのうえ、iPS細胞を作るのは費用と時間がかかります。
デウス博士とシュレップファー博士は、必要とするすべての人に適合する「普遍的」iPS細胞を作ることでこういった難題を避けることが可能になるのではないかと考えました。新たな論文では、たった3つの遺伝子を変化させることで、iPS細胞が、万全な免疫機能を持ち適合性のない患者に移植された場合でも、拒絶反応を避けられるようになることを紹介しています。
研究者たちはまずはじめに、CRISPRを使って、MHCクラス1とクラス2として知られる、主要組織適合遺伝子複合体の2つの遺伝子を除去しました。MHCタンパク質は、ほとんどすべての細胞の表面に存在し、シグナルを提示することで侵入者と自己を免疫系が識別するのを助けています。MHC遺伝子のない細胞では、これらのシグナルが提示されないため、よそ者として登録されません。しかし、MHCタンパク質を持たない細胞は、自然免疫細胞であるナチュラルキラー細胞(NK細胞)の標的となります。
シュレップファー博士のチームは、免疫細胞のマクロファージに対して「私を食べないで」というシグナルとして働くCD47を発見しました。このCD47はNK細胞に対しても強い抑制効果を持ちます。
CD47が拒絶反応を完全に停止させる鍵であるのではと考え、MHCタンパク質を取り除いた幹細胞で、マウスとヒト由来のものに、ウィルスを使ってCD47遺伝子を過剰に導入しました。
そして実際、CD47遺伝子が最後のパズルのピースであることが証明されました。この3重に遺伝子操作されたマウスの幹細胞を、免疫機能が万全な免疫不適合マウスに移植したところ拒絶反応が観察されませんでした。次に、操作したヒトの幹細胞を、ヒトの免疫系の要員によってヒトの免疫系を模したマウスに移植しました。その結果、やはり拒絶反応は見られませんでした。
加えて、3重に操作した幹細胞から誘導された、様々な心臓の細胞をヒト化した免疫のマウスに移植しました。幹細胞から分化した心臓の細胞は、長期間生き延びることができた上に、原始的な血管や心筋を形成し始めました。いずれは、損傷した心臓を修復するためにこの幹細胞が使えるようになる可能性が示されたのです。
参考記事: Medical X Press
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