現場に残されたDNAは絶対の証拠というわけでもなさそうです。たった10秒間の握手をすることで、触ってもいない物体にDNAが付着する可能性があります。アメリカの法科学の学会で法科学者シンシア・ケールが発表した内容によると、握手をする実験の7%で、フォークの握りについた主要なDNAのもち主が、直接触ったわけではない握手相手のものであったことがわかりました。握手された相手がフォークを握ったことで、間接的にフォークにDNAが移ったのです。
インディアナポリス大学で行われた別の研究では、共用のピッチャーのような物体を一番最後に触った人が、最も多くのDNAを残しているというわけではないことが示されています。
これらの発見からわかることは、他者との短い接触でさえ、DNAを広い範囲に撒き散らす可能性が有るということです。この現象によって、犯罪の現場検証が複雑になる可能性があります。これらの結果から、DNA鑑定の信頼性が揺らぐということではありませんが、これらの不意に起こるDNAの影響に捜査官は十分に注意する必要があります。
実際の現場では、そこに居なかったあるいは、物体に触らなかった人のDNAが見つかるという可能性はとても低いと、法遺伝学者のひとりは言います。残されたDNAは通常不安定で、時間とともに壊れていきます。「今回の発見を軽視することはできないが、実際の事件においていつでも持ち出すべきではない」と言うのです。
未接触でもDNAが拡散した2つの実験
先行研究では、2分間の握手でDNAが握手した手を介して、物体に移動することが発見されていますが、多くの批判が長すぎる握手時間に向けられています。新たな実験では握手時間を10秒と短くしました。それでも握手で間接的に付着したDNAが見つかっています。
インディアナポリスの実験では、生徒がテーブルに座って、飲み物を共通のピッチャーから注いでいます。実験を見ていた他の生徒は、いつでも部屋を出たり話したり移動したりする自由があたえられ、レストランにおける環境がシミュレートされています。テーブルの生徒がピッチャーとコップに触った後、研究者たちはピッチャーの持ち手とコップ、生徒の手からDNAサンプルを採取しました。
テーブルの生徒から採られたDNAは、ピッチャーの持ち手と他の人のコップで見つかっています。生徒は自分のコップしか触っていないのにです。その上、部屋で見ていた別の生徒のDNAも見つかっています。部屋で見ていた生徒は、テーブルの生徒やピッチャー、コップには触っていません。見ていた生徒たちは、話したり、咳やくしゃみをしたときに、つばをとばしたために、DNAが広がったのかもしれません。
残留したDNAの量を見ることで、誰がピッチャーを最後に触ったのかを当てたり、ピッチャーやコップをどれだけ長く触っていたかを言い当てることはできませんでした。つまり、社交場ではDNAは予想できない方法で容易に拡散することが示されたのです。
これらの結果は、人々がDNAを落とす割合は人によって異なることで説明できるかもしれません。
今回の発見がどれだけの頻度で、犯罪の現場検証結果を歪めているのかは、明らかではありません。今後は、実際の場面でこういったことが本当に起きているのかを慎重に確かめる必要があるでしょう。
参考記事: ScienceNews
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