生命に必要な材料を閉じ込めて、化学反応の場を提供するのが生体膜の役割ですが、原初の地球でどのように生体膜が形成されたのかは、謎でした。新たな研究で、原初の地球にも存在した生命の部品であるアミノ酸やRNAがあれば、この生体膜が安定して複雑な形状をとれることがわかりました。
初期の生体膜とイオンの矛盾した謎
地球に生命が誕生したのは、およそ40億年前のことで、炭素に富んだ原始のスープから最初の細胞が生まれたときのことです。この最初の細胞においては、解き明かされていない謎がありました。生命の基本的な活動を起こすためには、特別なイオンが必要である一方で、こうしたイオンが存在すると細胞を生み出している単純な細胞膜が破壊されてしまうのです。
今回、PNASで発表された発見によると、アミノ酸が不利な環境においても細胞膜を安定させることがわかりました。また、生体膜やタンパク質、RNAといった個々の基本物質が、太古の地球の水中環境でどのようにして一箇所に集まることができたのかをも説明しています。
ワシントン大学の客員教授で論文の共著者でもあるロイ・ブラック教授は次のように述べています。
初期の生体膜の安定化の謎にせまる
ブラック博士がワシントン大学に来たのは、この「どうにかして」という部分を明らかにするためでです。ブラック博士は生体膜の専門家であるサラ・ケナー教授と組んで研究を行いました。ブラック博士は脂肪酸分子が膜を形成するために自己組織化できるという観察に注目していました。そこで、この膜の表面こそがRNAやタンパク質の基本構成物がより集まることのできた、理想的な場であったという仮説をたてたのです。
チームは以前の研究で、RNAの基本構成物が脂肪酸による膜に好んで貼り付くことを示しています。驚いたことに、それが貼り付くことで、安定していなかった膜が、塩分に対抗することで安定することもわかりました。
チームは、アミノ酸もまた同じような安定化の働きを持つのではないかという仮説をたてました。そして、光学顕微鏡や電子顕微鏡、分光法などを使って、10種類のアミノ酸が膜とどのように相互作用するのかをテストしました。実験によっていくつかのアミノ酸が膜に結合し、膜を安定化させることがわかりました。あるアミノ酸は更に大きな変化をもたらし、同心円状の膜構造を生み出しました。それは、玉ねぎの皮の層構造に似ています。
研究者たちはまた、アミノ酸が膜を安定化させるのは、濃度を変化させることによってであることも発見しています。科学者の中には、初期の細胞が浅瀬の水たまりで形成されたという仮説を立てる人たちがいます。蒸発によって水分が飛んで濃縮されたり、雨で薄まったりすることで、アミノ酸の濃度変化のサイクルが生まれたというのです。
アミノ酸やRNAの素材が膜を安定化させるという発見はまた、膜がこういった始原分子を集合させる場所であったことも意味しており、生命の材料が寄せ集められた仕組みを説明できる可能性があります。
チームの次の目標は、これらの局在化した生命の構成物が、お互いに結びついて機能を持った分子に進化する場面を見ることです。
細胞膜や細胞小器官を形作っている生体膜ですが、細胞の内部と外部を隔て、生体活動の場となり、生体物質をためたり隔離したり、イオン濃度差を利用してエネルギーを生み出したり、数多くの働きを持っています。厳密に言えば生体膜を持っていない生物はいません。そんな重要な生体膜が、原始のスープから生み出され、安定化するメカニズムが明らかになりました。この発見を足がかりに、生命誕生の謎が解き明かされると同時に、人工生命が生み出される可能性もあるでしょう。
参考記事: Phys.Org
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