電気を通すのに熱は通さない、物理法則を無視した金属

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二酸化バナジウムという金属は変わった性質を持っていて、温度の変化で絶縁体にも伝導体にもなるのですが、それ以外にも、電気を通す際に温度は通さないという物理法則に当てはまらない性質を持つことがわかりました

通常の金属は触るとひんやり冷たかったり、熱するとさわれないほど熱くなったりしますが、それは容易に熱を通す性質を持っているからです。熱がすぐに材料全体に広がるため、熱しやすく冷めやすいのです。金属はまた、電気を通す性質を持っています。いずれの性質も金属内部を自由電子が行き交っていることが原因です。電気の伝導性と温度の伝導性は、比例する関係があり、ウィーデマンーフランツの法則と呼ばれています

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二酸化バナジウム(VO2)がこのウィーデマンーフランツの法則に従わないことが発見されたのは、2017年のことで、「Science」誌に論文が掲載されました。

この二酸化バナジウムのように、電気は通すけれど温度は通さない物質は、実はすでに見つかっていますが、いずれもこの性質を表すのがマイナス数百度の超低温であったため、実用価値はありませんでした。二酸化バナジウムは温度変化によって67℃で透明な絶縁体から伝導体である金属へと変化します。つまり、温度を通さないこの性質は室温近くの温度で達成されるため、実用価値が非常に高いのです

このような奇妙な性質が生まれる原因は何でしょう?研究者たちが発見したのは、二酸化バナジウム内の自由電子がシンクロして動くため、流体のように振る舞うことでした。通常の金属内の自由電子はランダムに動くため、効率的に熱伝導できます。金属の微細構造を様々な方法でジャンプして伝わることができるのです。一方で、電子がマーチングバンドのように動く二酸化バナジウムでは、ジャンプできるパターンが限られてくるため、伝わるのが遅くなります。

この面白い性質を応用するための特性も見つかりました。二酸化バナジウムを他の金属に混ぜることで、性質の強度を調整できるのです。例えば、タングステンに二酸化バナジウムを混ぜると、伝導体に変わる温度を下げ、熱伝導を高めることができます。また、二酸化バナジウムには30℃付近で透明になる性質がありますが、60℃を超えると暖かな赤外線を跳ね返すようになります。

この性質を窓ガラスのコーティングに応用すると、エアコン無しで空調をコントロールできるようになります。暖かな夏は赤外線を遮断した上で熱伝導性が高くなることで内部を冷やし、寒い冬には熱伝導性が下がり熱が漏れ出すのを防ぐのです。

実用化に向けてはまだ不明な点もあるため、さらなる研究が必要となりますが、エコフレンドリーな技術として期待がかかります。

参考記事: Science Alert

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