新たな宇宙を見る目「重力波天文学」【日本物理学会市民科学講演会より】

わかる!科学

重力波の初観測は、大きなニュースとしても取り上げられ、アインシュタインの宿題が解けたとして話題になりました。では、重力波が観測されると何がわかるのでしょうか?重力波によって宇宙を観測する、「重力波天文学」とは何であるのか、日本物理学会の市民講演会で聞いた内容を紹介したいと思います。

市民講演会は、移転が完了して間もない九州大学伊都キャンパスの椎木講堂で行われました。演者は名古屋大学教授でKabli IPMU研究員でもあられる杉山直先生と、東京大学准教授安東正樹先生です。それぞれ、「重力波天文学始動」と「重力波で探る宇宙」と題して、わかりやすく重力波について解説してくださいました。杉山先生は重力波とは一体何で、どのように検出されたのか、安東先生は、重力波の観測から何がわかり、日本の大型低温重力波望遠鏡KAGRAによって、どのような発見が期待されるのか、といった話をされていました。安東先生はブルーバックスの『重力波とは何か?』を著された先生でもあります。

以降は、公演を聞いた内容を元に、重力波やその検出法、今後の展望などを解説します。

重力波って何?

重力波とは重力による波です。重力は空間の歪みであるので、その歪みが振動して伝わると重力波となります。質量を持つ物体が光速近いスピードで動いた時に発せられ、光速で伝わり何でも通り抜けます。重力波の存在を最初に予言したのは、かの天才物理学者アルバート・アインシュタインです。彼は、1915年に発表した一般相対性理論を根拠に、巨大な質量が運動することで波が起きることを予言しています。

重力とは、ニュートンによると物質が持つものを引き寄せる力ですが、アインシュタインによると質量を持つ物質による時空の歪みです。この一般相対性理論で表される歪みが、最初に観測によって証明されたのは、1919年5月に起きた、西アフリカのプリンシペ島での皆既日食です。この時、太陽は1000個以上の星からなるヒアデス星団を通過していたのですが、星々の光が重力で曲げられたため、星々の位置がずれて見えたのです。この効果を重力レンズ効果と呼びます。

重力波は重力を生む物体が動くことで起きます。私達が動いたときも、理論上は重力波が生まれているはずです。しかし、あまりにも小さいため無いも同じなのです。地球上に存在するあらゆる物を動かしたとしても実質上重力波は起きません。なので、重力波を検出するために、地上で実験することはできないのです。重力波を生み出せるものには、どのようなものが有るのでしょうか。それほど大きな重力を持つものは3つあります。

  • 宇宙の始まり
  • ブラックホール
  • 中性子星

宇宙の始まり

宇宙の始まり、急激に宇宙が膨らんだインフレーション時には質量を持った物質がものすごいスピードで動いたはずで、重力波が生み出されていたはずです。

ブラックホール

ブラックホールは光のスピードでも脱出できないほど時空が歪んだ、驚くほど密度の高い天体です。ブラックホールは光を発しないので直接見ることはできません。しかし、ブラックホールに飛び込んだ物質が発するX線が観測されることで間接的に見つかっています。ブラックホールの大きさは、もし太陽質量のブラックホールがあった場合、3kmほどです。表面の重力は、なんと地球の1兆倍です。ブラックホールは1つだけでは重力波は生まれません。2つが対になったブラックホール連星が互いを公転することで、重力波は生まれます。LIGOによってブラックホールによる重力波が見つかったことで、ブラックホールの実在の証拠が増えたことになります。

中性子星

中性子星というのは、ブラックホールと同様、星の成れの果てです。ブラックホールよりも軽い天体からできているため、重力崩壊でブラックホールになる前の段階で止まっているのです。それは中性子で出来た塊で、一つの巨大な原子のようなものです。中性子星は規則的に電波を出しているため、観測することが出来ます。その規則正しさから、パルサーとして知られていた天体の正体が中性子星なのです。中性子星の表面重力は、地球上の2000億倍です。そのため、中性子星が連星になり、2つが近づきすぎて合体する際に起きる巨大な重力波は、地球でも観測できるのです。

実は、重力波を実証したのは中性子星が先です。といっても、間接的な証拠ではあったのですが。天文学者のテイラーとハルスは、中性子星連星のパルスを何年もかけて観測していました。そしてその点滅周期が次第に早くなっているのを発見したのです。これは、中性子星の公転周期が短くなっていることを意味しています。つまり、中性子星同士がどんどん近づいているのです。実は、この現象が起きるのは、重力波を生むことでエネルギーが放出されるからなのです。

重力波を検出する方法

地球に到達する重力波は非常に小さいものです。その規模は10-21です。これは、地球と太陽の距離があったとしても、わずかに水素原子1個分の差しか生まれない程度です。

アインシュタインの予言を証明するため、発見第一号を目指した研究は、1960年代から行われています。重力波の父と呼ばれているジョセフ・ウェーバーは、共振型と呼ばれる検出装置を作って、検出を試み、成功したと発表しましたが、追試による確認が取れず、本人も撤回しています。

2000年からレーザー干渉型の検出器が作られ始めました。LIGOやTAMA、KAGRAはレーザー干渉型です。マイケルソン干渉計という方式がとられています。

マイケルソン干渉計の仕組みは、まず、レーザーを斜めにしたスプリッターに当てて、分離。一つはそのまま真っ直ぐ進み、もう一つは90度曲がって進みます。このように、2つの直角したレーザー光の腕ができるのですが、2つの腕が全く同じ距離になるところで反射させ、スプリッターのところまで戻して、2つのレーザー光を干渉させます。重力波が届くと、縦方向と横方向が逆方向に伸び縮みするため、2つの腕の長さに違いが生まれます。なので、レーザー光の波にずれが生じて、干渉パターンが変わってきます。波のズレが、重力波の強さを表すのです。ちなみに、腕の長さは、初観測を成功させた2機のLIGOで4kmです。

初めての重力波を観測

アメリカの2機のLIGOが世界で初めて重力波を観測したのは2015年の9月14日のことでした。3000km離れた2機が、同時に約0.5秒の重力波を観測したのです。

観測で見つかった重力波は、ブラックホール連星から来たものでした。ブラックホール連星は、お互いを公転し合いながら、重力波を発生していますが、観測できるほど強くなるのは融合する瞬間です。融合後は1つのブラックホールになるため、重力波はなくなります。

この重力波からは、いろんなことがわかっています。まず、重力波の波形から、2つのブラックホールの質量がわかります。さらに、リングトーンと呼ばれるものから、融合後のブラックホールの質量がわかります。この2つの結果から、融合前にくらべて融合後の質量が太陽2つ分減っていることがわかりました。この減少は、重力波を生み出すためにエネルギーとして使われたものです。融合のたった0.2秒の間に、それだけのエネルギーが失われたのです。計算すると、1kgの物質が持つエネルギーの、1兆倍の1兆倍の6百万倍という意味のわからない大きさでした。宇宙で見られる壮大なイベントである超新星爆発やガンマ線バーストよりもずっと大きなエネルギーです。

また、ブラックホールの質量と重力波のエネルギーがわかったことから、ブラックホールまでの距離もわかりました。今まで正体不明だったブラックホールについて、その実在のみならず、多くの性質が重力波によって明らかとなったのです。

しかし、重力波天文学の能力が更に発揮されたのは、中性子星連星による重力波の観測でした。

初めての中性子星融合の重力波

中性子星は、パルサーとして多く見つかっており、1967年に初めて見つかってから現在までに2000個以上が見つかっています。しかし、その融合は一つの銀河で、10億年に1回しか見られないそうです。

しかし、2017年の8月17日に連星中性子星の融合による重力波が捕らえられました。中性子星の場合、質量がブラックホールよりも軽いため重力波も弱く、時間も長くなります。その時間30秒。LIGOだけでなく、ヨーロッパのVirgoでも観測されています。複数の地点で観測されたことで、そのズレから、重力波がどの方向から飛んできたかがわかりました。

ブラックホールとの違いはここからです。ブラックホールとは違って中性子星は物質で出来ているため、衝突で電磁波を放射するのです。ガンマ線観測衛星のフェルミとGBM、Integralが、同じ領域からガンマ線バーストを観測しています。更に可視光でも11時間後に6つの望遠鏡が光を捕らえており、X線観測衛星であるチャンドラも9日後にX線を同領域で観測しています。ほかのあらゆる電磁波で中性子星融合イベントは観測されたのです。

その結果、中性子星融合イベントによって、鉄より重たい元素が生み出されることがわかりました。今まで、そういった元素は超新星爆発でのみ作られると考えられていたのです。また、電磁波と重力波が同時に観測されたことで、重力波の速度がわかりました。それは、予想通り光と同じ速度でした。

1つの銀河内で重力波が起きるのは1000年から1万年に1度なのだそうですが、宇宙には多くの銀河があります。重力波観測が成功して、現在までに10回の重力波が観測されています。今後も、新しい重力波の発見は続くでしょう。

日本の重力波観測装置KAGRA

日本でも腕の長さ300mのTAMAがあります。また、腕の長さが3kmで冷却することで雑音を減らせる、最新のKAGRAが完成を間近にしています。世界の重力波検出装置にKAGRAが加わることで、重力波の発生源の位置を更に正確に絞ることができるようになります。

今後は、宇宙に重力波検出装置を設置することで腕の距離を最大限に伸ばし、更に小さな重力波を検出するという計画があります。もし、かすかな重力波をとらえることができるようになれば、宇宙誕生時期の重力波を捉えることができるかもしれません。電磁波はマイクロ波背景放射の壁の先を見ることはできません。しかし、重力波はその壁を超えることが出来るのです。

講演後の質問では、ブラックホールを通ってUFOが来るのかといった、内容とあまり関係のないものもあり先生も困惑されていましたが、どちらかというと物理系の質問が多かったです。あと、138億年の昔の光がどうして地球に届くのかといった質問もありましたが、先生の答えに納得されなかったようで、途中で打ち切られていました。光の速度が有限であり、宇宙が加速度的に膨張しているからなんですが、想像しにくいかもしれませんね。

私も、質問したくて手を上げたのですが、残念なことに当ててもらえませんでした。天の川銀河に重力波を発生する可能性のあるブラックホールや中性子星の連星の数がどれくらいあるのか、聞きたかったです。

https://twitter.com/yoshiya07/status/1107285707486191617

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