ついに見えた!世界の電波望遠鏡をつないでブラックホールの観測に成功

天文学

宇宙に興味がない人でも名前はきいたことがあるブラックホール。実は今までその姿を誰も見たことはなく、つい最近まで理論上の存在に過ぎなかったのです。それが、今回、世界中にある大型の電波望遠鏡をつないで、地球規模の巨大望遠鏡とし、データの解析によってその姿を目に見えるものとすることに成功しました。その巨大望遠鏡の名前は、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)。同調したデータを超長基線電波干渉法(VLBI)を用いて結合して、超高倍率の映像を作るという方法で、ブラックホールの姿を見ようというプロジェクトです。日本の国立天文台も協力しています。

宇宙の超巨大モンスター

その大きさ400億キロメートル。地球の大きさの300万倍という超巨大モンスターが姿を表しました。6本の論文にまとめられた結果は、「Astrophysical Journal Letters」で発表されています。

今回画像化された超大質量ブラックホールは、M87という楕円銀河の中心にある、最大級に大きいと考えられているブラックホールです。サイズから計算された質量は、太陽の65億倍です。

画像では、強烈に明るい「炎の輪」が、完全な円形のブラックホールを取り囲んでいます。ブラックホールの境界とされる事象の地平線からは光さえも逃れられないので、ほんとうの意味ではブラックホールは見えません。しかし、M87のように活発な銀河では、中央のブラックホールに向かって物質が流れ込んでおり、降着円盤が作られます。その運動は激しく、驚くほど高温になっているため、あらゆる電磁波を凄まじい明るさで放出しており、観測することができるのです。反面ブラックホールは真っ黒で不透明なため浮かび上がって見えるのです

光と闇の境界の内側には、光が出ることの出来ない事象の地平線があります。しかし、今回観測された境界は事象の地平線ではありません。事象の地平線を観察することは原理上不可能です。

理論とも一致

画像は日本の開発した方法を含む3つの方法によって作られましたが、いずれの方法でも同様の画像となっており、観測の確かさを表しています。また、理論から作られたシミュレーションにより得られた画像とも一致しています。ブラックホールの存在を予言した理論は、一般相対性理論を元に作られています。最も基本となっているのは、シュバルツシルト解と呼ばれているものです。理論予想とあっていたことから、アインシュタインの理論の正確さが、また確かめられたことになります。

直接観察が成し遂げられたことで、研究者たちがこの不思議な天体の謎を解く手がかりが与えられたことになります。実際のところ、ブラックホールを取り巻く眩しい降着円盤や、上下に吹き出す相対論的ジェットがどのようにして生まれているのか、わかっていないのです。また、超大質量ブラックホールについては、その成り立ちもわかっていません。

ブラックホールは見えると信じた博士

今回の偉業のアイディアを最初に思いついたのは、ハイノー・ファルック教授が1993年に博士課程の学生だったときです。当時、だれもそれが可能だとは思っていませんでした。しかし、彼はある種の電波がブラックホールの直ぐ側で発生している可能性や、その強度が地球上の望遠鏡で検知できるものである可能性に気づいていました。

また、ブラックホールはその強大な重力から、実際の大きさよりも2.5倍大きく見えることを示唆する1973年の論文のことを覚えていました。

これらの2つの要素から、突如それが可能であるように思えたのです。20年間もの主張の末、欧州研究会議を説得して予算をつけてもらうことに成功します。アメリカ国立科学財団や、東アジアの機関も出資に参加しました。

ファルック教授は、「長い旅でした。しかし、これこそが自分の目で見たかったものです。夢のようです。」と述べています。

8つの電波望遠鏡による惑星規模ネットワーク

一つの望遠鏡だけでは、ブラックホールの画像を得るには十分ではありませんでした。そこで、こういった実験でも最大の、8個の望遠鏡によるネットワークが構築されました。合わせて、イベント・ホライズン・テレスコープという、惑星サイズのアンテナ群が出来上がったのです。

200人もの科学者からなるチームは、ネットワーク化された望遠鏡を一斉にM87へと向け、その中心を10日間に渡ってスキャンしました。得られたデータは、インターネットで送るには大きすぎたので、各拠点で何百ものハードディスクへと保存され、ボストンとボンの中央計算機センターで集められました。データの解析アルゴリズムを作ったのは、MITのケイティ・ボウマン博士。彼女の貢献がなければ、このプロジェクトは不可能だったでしょう。

天の川銀河の中心も見る!

EHTはまた、私達の天の川銀河中心の超大質量ブラックホール、射手座Aにも向けられています。解析が後回しにされているのは、難易度がさらに高いからです。というのも、射手座Aは距離こそM87よりもずっと近いのですが、サイズが小さいため周囲の高温ガスのスピードが相対的に早くなることと、光が暗いために映像化が難しいのです。しかし、その解析が終わるのも時間の問題でしょう。

これで、ブラックホールの存在は、重力波と直接観察という2つの方法で証明されたことになります。以前は理論上の存在に過ぎなかったものが、こうしてリアルに存在することがはっきりと示されたのです。2つの研究法を得たことで、謎の天体ブラックホールの数々の秘密が解き明かされていくでしょう。その過程で、宇宙そのものの形成の謎や、物理学の究極の難問も解かれるかもしれません。今後の展開が非常に楽しみです。

参考記事: BBC

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