アンデスで見つかった9000年前のハンターと見られる遺骨は、発見当初男性のものと思われていたのですが、詳しく調べるとそれが女性のものであることがわかりました
遺骨の周りには、20もの尖頭器や、石のナイフが整然と置かれており、グループのリーダー格の男性だったのではと、発掘した人々は話し合っていたといいます。
見つけたのは、カリフォルニア大学デービス校の考古学者ランディ・ハースです。
しかし、アリゾナ大学の生物考古学者ジム・ワトソンは、骨が軽くスリムだったことから、遺骨の主は女性ではないかと指摘しました。
新たな論文では、この遺骨が実際に女性のものであったことが報告され、さらにアメリカで見つかったハンターと思われる遺骨を再調査した結果、10の遺骨が女性のものであったことがわかりました。
この報告は、以前から当然のように思われてきた、「男性が狩猟し、女性は採取する」という男性狩猟者仮説を真っ向から否定するものです。
昔から、男性が大型動物を狩猟をし、女性が植物を採取するという形での性の分業が行われていて、それが覆ることはなかったというこの仮説が提唱されたのは1966年のシカゴのシンポジウムでした。
それ以降、この仮説がおかしいと反論する考古学者もいて、女性戦士の証拠も見つかっていたのですが、狩猟する女性の考古学的な証拠は今日までほとんど見つかっていませんでした。
しかし、男性狩猟者仮説をサポートしているのも、タンザニアや南アフリカに現存する種族の観察からです。
今回の発見をしたハースやそのチームも最初は、女性ハンターの研究を意図していませんでした。
化石化した遺骨を見つけたのはペルーの高度3925メートルの吹きさらしの高原にあるウィラマヤ・パジクサと呼ばれる場所です。
6人の遺骨が同時に見つかっており、そのうち二人の遺骨は石器とともに埋められていました。
もうひとりは17歳から19歳の人物で、槍の先につけられていたと思われる4つの尖頭器と、ナイフや皮や肉を削ぐのに使ったと思われるいくつかの石刃とともに見つかりました。
20の石器と日焼けを隠すための黄土色の色素がきちんと重なった状態で、一人の大腿骨の上で見つかっており、それはあたかも、革製のポーチにまとめられていたかのようでした。
もうひとりは25から35歳で、2つの尖頭器とともに埋められていました。
墓穴には、アンデス鹿やビクーニャかグアナコのようなラクダ類の骨のかけらも見つかっています。
骨の性別を調べるために、研究者たちは最新の科学捜査の手法を用いました。
歯のエナメルに含まれるタンパク質アメロゲニンの遺伝子パターンを調べることで、性別が鑑定できるのです。
その結果、印象的な石器を多数持っていた人物が女性で、他の狩猟道具をもっていたのが男性であることがわかりました。
歯に含まれる炭素や窒素の放射線同位体を調べることで、何を食べていたかわかるのですが、女性は典型的なハンターが食べる肉や植物を食べていました。
つまりこの女性は、狩りをするグループとともに行動していたことになります。
さらに、研究ではアメリカにある107の埋葬地点での報告を調べたところ、その中に狩猟道具とともに埋葬されていた10の女性と16の男性を見つけました。
つまり、狩りのグループに女性がいることは、よくあることだったのです。
これらの結果をまとめた論文は、「Science Advances」で発表されています。
ただ、狩猟道具と一緒に埋葬されていたからと言って、その道具を生前使っていたと言う証拠にはなりません。
女性の赤ちゃんの墓に、狩猟道具が見つかったという例もあります。
女性に心を寄せた男性が、悲しみのあまりに自分の狩猟道具を一緒に埋葬したのかもしれません。
そういう例はあったかもしれませんが、女性が狩りをしていたということはあり得ることですし、狩りをする能力があったことを示す分析もあります。
3925メートルの高地に同行していたタフな女性なら、鹿を倒すこともできたという推測はそれほど的外れでもないでしょう。
参考記事: Science
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