声を持たない植物は、匂いでお互いにコミュニケーションをとっています。その会話の内容を探り出す研究が始まっています
植物にコミュニケーション能力があることがわかってから、それほど長い時間は経っていません。コミュニケーションは例えば、近くにある同種の植物との間で匂いの化学物質によって行われます。もし近くで昆虫によって葉っぱがかじられれば、化学物質によってそれを感知し、植物は積極的に防御物質を増産します。
あるいは、他の植物が自分の縄張りを侵さないように、防御的な障壁を作って妨げることもします。また、哺乳類といった他の種類の生物とコミュニケーションをとってさえいる可能性さえも見つかっています。
植物によるコミュニケーション
哺乳類とのコミュニケーションの例は、「Current Biology」で発表されました。ある種の植物が、コウモリのコミュニケーションに干渉して、その植物の場所をコウモリに知らせています。コウモリはこの植物にとっての肥料を提供してくれるため、コウモリを引き寄せることは植物にとって有利になります。
ある植物は、競合となる植物を殺すために、有害な化学物質を生産します。それに対抗するために、シュウ酸を作って防御的な障壁をつくるものも見つかっています。
面白い例として、芋虫に食べられている植物が、数十から数百もの異なる匂いを放出するというものがあります。芋虫の天敵である寄生蜂が、これらの匂いの一部を嗅ぎつけて引き寄せられるのです。また、近くの植物も匂いを嗅ぎつけている可能性があり、防御機構を高めることがわかっています。そして、植物が放出する多くの揮発性化学物質のうち、寄生蜂を引き寄せるのはほんの数種類であることがわかっています。しかし、どの物質がどのようなメッセージを送っているのかはほとんどわかっていません。
研究は進んでいますが、植物間のコミュニケーションの謎の大部分はいまだにわかっていません。ワシントン大学の研究者たちが、その解明に乗り出しました。
香りそれぞれに、異なる信頼度が存在している
ワシントン大学の研究では、香りが空気中に放出されてからの効果をシミュレートするモデルが組み立てられました。その結果、昆虫によって食べられていることを示すシグナルとして、ある香り物質は信頼性が高く、他のものは信頼性が低いことがわかりました。
香りの信頼性が高いかどうかは、その化学物質の化学特性によって決まります。ある香りはオゾンや他の物質の影響で急速に分解され薄れます。そのため濃度がとても低くなり、検出が難しくなります。その対極にあるのが、長い間損なわれることなく残る香りで、その性質から放出源に関する情報の信頼性は低くなります。
また、ある香りは芋虫が葉っぱを食べるのをやめても放出され続けるため、空気中に残り続けることもわかりました。そのため、寄生蜂は芋虫がまだいるものと勘違いして近づいて来るかもしれません。
芋虫に食べられているときだけ濃度が濃くなり、それ以外では薄まって検出できなくなるものがより信頼性が高いシグナルということになるでしょう。
今回のモデルにより計算された結果は、野外での観察や研究室での実験で見られた結果と一致しており、信頼できるものであることがわかっています。モデルが適用されたのは、ヨーロッパ北西部でよく見られる木々に対してですが、データさえ揃えれば、他の種類の植物にも適用可能です。
今回の研究によって、植物の言葉を解明する最初の一歩が踏み出されました。植物の放出する香りは多様ですので、その道程は長いものとなるでしょう。植物の言葉がわかれば、農業や園芸、環境保全のために役立てることができるようになるでしょう。今回の研究は、「Plant, Cell & Environment」に掲載されています。
参考記事: Universal-Sci
コメント