酸素呼吸していない!ミトコンドリアゲノムをなくした「動物」が発見される

好気呼吸しない虫 サイエンスニュース

多細胞真核生物の細胞にはミトコンドリアがあり、酸素を使ってエネルギーを生み出すことで生きています。しかし、その常識をくつがえす、ミトコンドリアによる好気呼吸を行っていない寄生生物が発見されました

私達人間のような多細胞生物、例えば魚や昆虫、小さな線虫は、すべて酸素による好気呼吸によってエネルギーを得て生きています。

こういった生物の細胞にはミトコンドリアが必ずあり、好気呼吸によるエネルギーを生み出しているのは、このミトコンドリアの働きです。

今回研究者たちが発見したのは、好気呼吸を必要としない現段階で唯一の動物です。

この動物は、サケに寄生してその組織内で生きており、酸素がなくてもエネルギーを生み出せるように進化しました。

オレゴン州立大学による研究成果は、学術誌「PNAS」に掲載されています。

この新たな分野を開いた研究で見つかったのは、わずか10個の細胞からなる粘液胞子虫ヘネガヤ・サルミニコラ(Henneguya salminicola)です

生物全体から見ると、酸素を必要としない生物はたくさんいます。

細菌や単細胞生物の中には酸素を嫌う、嫌気性のものが多くいて、酸素を使わない無気呼吸でエネルギーを生み出して生きているからです。

しかし、ヘネガヤ・サルコミラはミクソゾア門の刺胞動物で、クラゲやサンゴの仲間になります。

当然、多細胞の真核生物です。

しかし、サケの筋組織という酸素の少ない環境で、酸素呼吸を行わずに、サケが作ったすでに使える形のエネルギーを盗んでいるようなのです。

この生物はサケの筋肉に白い結節を作ります。サケにとってこれは無害であり、人にも悪影響はありません。

ヘネガヤによる結節

http://fishparasite.fs.a.u-tokyo.ac.jp/Henneguya%20salminicola/Henneguyasalminicola.html

酸素の少ない環境で生き延びるために、この寄生虫は酸素を使わない呼吸をしてるようです。

また、無酸素呼吸への適応により、ミトコンドリアのゲノムは完全に欠落しています。

もう必要ないゲノムの複製でエネルギーを消費しないようになったのです。

寄生虫本体のゲノムにも、好気呼吸に必要な遺伝子の欠落や機能の無効化が見られることから、酸素による呼吸をしていないことは明らかです。

酸素呼吸をしていないこの寄生生物が、何によって生きているのか、実のところ研究者にもわかっていません。

宿主によって使える形にされたエネルギーを吸収しているのではないかというのも推測です。

それを解明するには、多くの困難があります。複数の宿主を持つ寄生生物を研究室で育てるのは難しいのです。

ただ、酸素による好気呼吸を行わない動物が、ヘネガヤ・サルミニコラだけだと研究者たちは考えていません。

酸素がなくても生きられる動物はまだ他にもいるはずだと考えています。

当サイトでも酸素のほとんどない環境で生きている魚の記事を紹介しました。

他にも、好気呼吸を行わない動物が見つかれば、その謎も解明されるに違いありません。

参考記事: CNN

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