ヒトの平均寿命は女性の方が男性よりも長くなっています。これは、他の哺乳類でも見られる性質です。しかし、鳥では寿命の性差は逆転します。その原因は性染色体の組み合わせにあるようなのです。
性染色体というのは、性別を決める染色体であり、ヒトの場合X染色体とY染色体があります。女性の場合はX染色体のみでXXという組み合わせになり、男性の場合はX染色体とY染色体を1本ずつ持つXYという組み合わせになります。
女性は同じ染色体を2つ持つことになるのですが、それが長寿に結びついていると考えられます。2つあることによって、お互いを補い合う保護効果が得られると考えられるのです。
論文の著者は、今回の発見から寿命をコントロールする仕組みが明らかにされることを期待しています。その仕組を担う遺伝子が性染色体にあると考えられるからです。
同じ性染色体を持つことが長生きにつながっている
同一の性染色体を持つことは保護的な効果があるという考え自体はずっと唱えられていて、女性が同一の性染色体を持ち男性よりも長生きするという観察と一致しています。
また、鳥ではオスの方が長生きするのですが、性染色体はオスがZ染色体を2つ持ち、メスはZ染色体とW染色体の組み合わせとなっています。これは哺乳類の場合とちょうど正反対です。
今回「Biology Letters」誌に掲載された論文では、この性染色体の組み合わせと寿命の性差の関係が、生物界で広く見られることが明らかにされました。
研究では、昆虫から魚、哺乳類までの229種類の動物について、性染色体と寿命が調べられました。雌雄同体の生物や環境によって性別が変わるような種類の生物は、この研究には含まれません。
研究の結果、2つの同じ性染色体の組み合わせを持つ性では、異なる性染色体の組み合わせや1つしか性染色体を持たない性に比べて、寿命が平均17.6%長くなることがわかりました。
ヒトの性染色体の組み合わせは女性の場合はXXで男性の場合はXYです。しかし、女性の細胞内においては、2つあるX染色体のどちらか一方だけしか働いていません。
女性の細胞はX染色体に関してどちらかだけが機能しているモザイク状になっているのです。
そのため、もし、X染色体上にある遺伝子に有害な変異が起こったとしても、その悪影響を受ける細胞は限定されます。半分は正常な遺伝子が働くからです。
男性の場合は、X染色体が1つしかないので、遺伝子に悪影響のある変異が入った場合、それは100%の細胞に悪影響を及ぼすことになってしまいます。
そのため、男性の方が寿命が短くなってしまうと考えられるのです。
でもやっぱりオスのほうが割を食ってる?
研究では、鳥などの同じ性染色体のペアを持つオスについて調べられていますが、その場合、オスの平均寿命はメスの平均寿命より7.1%しか長くなっていませんでした。
逆の、メスが同じ性染色体をもつ場合の20.9%長い平均寿命に比べると短いと言えます。
研究者たちはこの違いを、性の違いの別の側面にあるものと考えています。
オスのほうが、メスを守るために戦うなどのリスクを負う行動をすることが関係しているのかもしれません。
オスは、メスを探すため遠くまで旅をしたり、縄張りを作ったり、他のオスと争ったり、といった行動をとりますが、メスにはそのような行動はあまり見られません。
他にも、女性ホルモンであるエストロゲンが染色体の末端を守る働きを持つことが関係しているかもしれません。
今回の研究でわかったことは、寿命の性差は性染色体の組み合わせにあるということです。また、オスのほうがメスよりもリスクのある行動をすることも一つの因子として考えられることも明らかになりました。
今後、寿命の違いを生むX染色体上の遺伝子の変異が特定されれば、長生きの秘訣がわかるかもしれませんね。
参考記事: The Guardian
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