理論上寿命無限!生物界随一の若返り能力をもつ生き物「ベニクラゲ」

ベニクラゲ わかる!科学

不老不死はかつて天下を治めた始皇帝やクレオパトラも憧れて手にできかなかった夢です。しかし、この自然豊かな地球上に生息する多様な生物の中には、その夢を生まれながらにして叶えているものがいるのです。

その生物は目でやっと見えるくらいの大きさで、海中に漂っているクラゲの一種です。

ベニクラゲは、日本近海でも生息が確認されているクラゲで、その名前が示すとおり、透明な体から透けて見える胃が真っ赤に見えます。

この世界中で見られる小さなクラゲの驚くべき能力が見つかったのは、1991年のことで、地中海に住むベニクラゲ(Turritopsis dohrnii)が、成熟前のポリプへと逆戻りして、再びライフサイクルをやり直す様が観察されました。つまり若返りです。

日本でもかごしま水族館が、鹿児島湾で採取した日本に住むベニクラゲで同じ現象を見つけています。

京都大学の久保田准教授はさらにこの若返りを、2年間の間に10回続けて起こさせることに成功しており、若返り回数の世界記録となっています。

しかし、厳密に言えば、ベニクラゲは不老不死ではありません。

捕食者に食べられたり、病気になったり劣悪な環境では死んでしまうので、不死ではありませんし、雌雄の区別のある有性生殖で子孫を残した後は、老いてしまったかのように溶けるように消えてしまうので老化もしているようです。

それでも、ベニクラゲが不老不死に一番近いと考えられるのは、成熟した個体の老化が進んだ段階から、クラゲの幼虫とも言うべきポリプへとライフサイクルを逆転させることができるからです。

ベニクラゲのライフサイクル

ベニクラゲのライフサイクル credit:久保田信

ベニクラゲのライフサイクルは受精卵から始まるとすると、まず、成体とは形の異なるプラヌラ幼生として、海中を漂って足場へと固着してポリプとなります。

ポリプは単為生殖で成長して植物のように根を伸ばし、茎の先端に花のようなヒドラ花をつけてその周りに触手を生やします。

茎にはクラゲ芽が生えて、離脱したクラゲ芽が幼クラゲとなります。

幼クラゲは成熟して雌雄の区別のある成体クラゲとなり、卵子と精子が受精して受精卵となりライフサイクルが完成します。

これが通常のサイクルなのですが、ベニクラゲの若返りでは、ポリプから成体ではなくて、成体からポリプへと、生殖を経ずに戻ることができるのです。

成体からポリプへの若返りは、普通の生育環境でも起こるようですが、もっと簡単に若返りを強制させる方法もあるようです。

ちょっと残酷な方法なのですが、久保田准教授によると、針で100回ほどつついてクラゲに重傷を負わせると、縮退や傘の反転といった若返りの反応を示すようになります。

漫画などで手を噛み切ったりして、追い込まれると巨人化するみたいな設定と似ていますね。追い込まれるとスーパーパワーを発揮するのは自然界でも起こることのようです。

こうして若返ったポリプは、有性生殖で生み出されたポリプとは違って、元の成体の遺伝子を完全に引き継いでいる同じ個体と言えそうです

クラゲ

David MarkによるPixabayからの画像

この若返りを分子レベルで研究できれば、ヒトの老化を食い止めるヒントが得られるかもしれません。

久保田准教授らは、若返りの各段階でどのような遺伝子発現パターンが見られるのか、遺伝子を読むことで、推定する実験を行っています

その結果、若返りの段階では、分子を分解してエネルギーを取り出す異化や、二次代謝、触媒活性、DNA結合などの機能をもつ遺伝子が多く発現していることがわかりました

また、再生時に重要な働きをするWnt3遺伝子は、若返りで中心的な働きをしておらず、再生と若返りは別物であることがわかりました。

とはいえ、まだ若返りの鍵となる遺伝子が見つかったわけではないので、今後の研究の進展に期待しましょう。

ベニクラゲを多くの研究室で容易に育成するための方法の開発や、ゲノム解析といった研究が現在行われており、ベニクラゲの若返りの秘密が明らかになる日も遠くないかもしれません。

ヨシヤ

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