音楽でも、歌にだけ反応する神経の集団が見つかる

歌 生物学

MITの神経科学者たちが、人間の脳の中で、音楽の中でも歌を聞いたときにだけ反応する神経の一群を初めて特定しました。

これらの神経は、聴覚野で見つかっており、音声と音楽の特徴的な組み合わせにだけ反応し、単なる発話や楽器演奏だけの音楽には反応しないことが分かりました。これらの神経が実際に何をしているのかはわかっておらず、さらなる研究が必要だと研究者たちは述べています。

「今回の研究では、聴覚野において比較的目の細かい機能の分離ができる証拠と、それが音楽の中で直感的にはっきり異なったものと関係していることを示しました。」と、研究当初はMITのポスドクで、現在はロチェスター医科センター大学の神経科学助教授であるサム・ノーマン・エニュレ氏は言います。

今回の研究は、2015年に同じ研究チームが機能的磁気共鳴画像検査(fMRI)を使って、脳内にある聴覚野で音楽にだけ特異的に反応する神経集団を特定した研究に基づいています。新たな研究では、脳の表面で測定された電気活動の記録を使っており、fMRIよりも更に正確な情報が得られます。

「歌に反応する神経の集団が一つありますが、その直ぐ側にはもっと幅広い音楽に反応する他の神経集団があります。fMRIによる検査の精度では、それらは近くにありすぎて区別できませんが、頭蓋内部での記録ではさらなる解像度が得られ、それらを区別できたのだと思います」とノーマン・エニュレ氏。

Current Biologyに掲載された今回の論文では、ノーマン氏は筆頭著者です。MIT’s McGovern Institute for Brain Research and Center for Brains, Minds and Machines(CBMM)の他の研究者たちも研究に参加しています。

神経活動の記録

ミュージック

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2015年の研究では、色んな種類の発話や音楽、指によるタッピング音や吠える犬などといった日常の音を含んだ165個の音を被験者たちに聞かせて、その脳の活動をfMRIを使ってスキャンしました。研究のために、fMRIのデータを解析する新たな方法を開発し、音楽に選択的なものから、発話に特異的なものなどを含む反応パターンを見つけ、6つの神経集団を特定できました。

新たな研究では、頭蓋内に電極を置いて電気活動を記録できる「皮質脳波検査法(ECoG)」という技術を使ってさらに解像度の細かいデータが得られることが期待されました。それにより、脳内の血流を神経活動の代わりとして測るfMRIよりも正確な電気活動の像が得られます。

「ヒトの認知神経学研究の殆どの方法では、神経の像を得ることはできません。そういった集めることのできるほとんどのデータでは、何かを行っている脳の部分があるということしかわからず、限定的なのです。我々は、そこで何が行われているのかを知りたいのです。」とナンシー・カンウィッシャーさんは言います。

皮質脳波検査法がヒトを対象に行われることは一般的ではありません。というのも、それが侵襲的な検査法だからです。しかし、発作の手術をまさに行おうとしているてんかん患者をモニターするためにはよく使われています。数日に渡って患者たちの脳はモニターされ、手術前に発作が起こる発生点を見つけます。その間、もし患者たちが了承すれば、なにか作業を行っている最中の、脳の活動の測定が含まれる研究に参加できます。今回の研究でMITのチームは、数年間の間に15人の参加者からデータを得ることができました。

参加者に対して、研究者たちはfMRIの研究で使ったのと同じ165セットの音をきかせました。患者ごとの電極の位置は、彼らの外科医によって決定されました。そのため、音声刺激に全く反応しない電極があっても、多くは反応します。新たに開発した統計解析法を使って、各電極で記録されたデータを生み出した神経集団のタイプを推測することができました。

「今回のデータセットにこの方法を適用すると、歌にだけ反応する神経集団のパターンが浮かび上がりました。この発見は私達が予想していなかったもので、この発見によりこの研究法全体がとても説得力のあるものになりました。というのも、探そうと思ってもいなかった新たなことが発見される可能性があることが明らかになったからです。」とノーマン・エニュレ氏は言います。

その歌に特異的な神経集団は、発話に対しても音楽に対してもとても弱い反応しか見せません。そのため、2015年の研究で特定された音楽、あるいは発話選択的な集団とは明らかに異なっています。

脳の中の音楽

研究の第二段階で研究者たちは、頭蓋内部での記録と2015年の研究で得られたfMRIのデータを組み合わせる、数学的な方法を開発しました。fMRIのデータが脳のより広い範囲を含むため、歌に反応する神経集団のより正確な部位を特定できます。

「ECoGとfMRIを組み合わせるこの方法には方法論的に明らかな優位性があります。この10年から15年の間に多くの人がECoGを行ってきましたが、いつも記録の数が少ないという問題によって制限され続けてきました。サムは、反応全体の局在をより良く特定するために、電極による高い解像度の記録とfMRIのデータを組み合わせる方法を見つけた最初の人物です」とマクダーモットさんは言います。

彼らが見つけた歌に特異的なホットスポットは、側頭葉の頂部、言語や音楽に選択的な領域近くに局在していることが分かりました。この部位にあるということは、歌に特異的な集団は、より高度な処理のために他の脳領域に情報を送る前の、ピッチの受容や言葉とピッチの相互作用のような特徴へ反応しているのかもしれないと、研究者は説明しています。

研究者たちは、現在、歌のどういった側面がこれらの神経の反応を誘っているのか、より詳しく調べたいと思っています。また、MITのレベッカ・サックス教授の研究室と協力して、幼児でもこれらの音楽選択的な領域があるのかを調べ、いつどのようにしてこれらの脳の領域が発達するのかを調べたいと思っています。

 

参考記事: Science Daily

 

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