科学者の作った「ミニブレイン」に、脳波が宿る!倫理的な問題は?

サイエンスニュース

研究室で実験的に作られた脳細胞が自発的に神経発火を始め、人間の脳のように振る舞いました。もっと正確に言うと、未熟児相当の脳活動を、試験管で生み出されたミニブレインが示したのです。

この研究はまだ、レビューを通ってはいないのですが、内容が確認されば、脳の発達障害や機能不全の研究への大きな一歩となることは確実です。

しかし、難色を示す研究者もいます。というのも、この機能を示した脳を更に育てた場合、意識を持つ可能性があるからです。

研究は、“Society for Neuroscience”の年会で発表され、プレプリントサーバの“bioRxiv”で公表されています。

Photo credit: kidpixo on VisualHunt / CC BY-NC-SA

試験管で生み出されたミニサイズの器官のことを、オルガノイドといいます。薬の試験や、厳しい環境での発生を研究する目的で作られています。この脳のオルガノイドは、どの細胞にでもなれる能力のあるiPS細胞やES細胞のような、ヒトの万能細胞から作られました。

認知機能に重要な働きを持つ大脳皮質へと発生するように万能細胞を人為的に誘導して作られているのです。実験では何百もの小さな脳を10ヶ月に渡って成長させ、脳の発生で重要な遺伝子がちゃんと働いているのかが調べられました。それと同時に、脳波も調べられています。

すると、6ヶ月後にこの小さな脳から、今までに記録されたものよりもずっと活発な脳活動が検出されたのです。

解析の結果、この活動は統制が取れておらず、大人の脳波とは違ったものであることがわかりました。しかし、早産で生まれた胎児に見られる、同期した脳活動の無秩序な爆発にパターンが似ていたのです。

全く同じというわけではありませんでしたが、胎児の脳波特徴を学習した機械学習が、発生の時系列で見られる多くの共通する特徴を発見しています。28週目のミニブレインは、同じ年齢の胎児の脳と似た発生の過程を経ていることが確認されているのです。

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このミニブレイン、ただ小さくシンプルなだけでなく、脳の他の領域とも接続しておらず、さらには、神経の活動に必要なたんばく質が欠如するように操作されています。それでも、脳の発生の理解に向けて重要な貢献を果たす可能性が示されたのです。

もちろん、このシンプルなミニブレインによって、複雑な脳機能がすべてわかるわけではありません。しかし、試験管で作られたものの研究の第一歩としては悪くありません。研究者たちは、この脳のオルガノイドの発生の段階をさらに進めて、どうなるかを見たいと思っています。

しかし、研究者の中には、培養液の中で育った脳が意識を持つ可能性について懸念を示す人もいます。今の所、意識の兆候を見せたミニブレインはありませんが、研究が進むと、現れる可能性はゼロではありません。

そういった懸念から、実験ではオルガノイドの脳が完全な機能を持たないように操作されています。そのため、現段階でそのような心配を当の研究者たちはしていません。しかし、もし、意識の兆候が示されたとすると、研究は中断するしかなくなるのです。

培養液の水槽で脳だけが培養されている風景は、SF物ではよく見られる風景ですが、それが現実に近づいています。脳だけの器官が意識を持ったとしても、その脳には感覚器も何も接続していないわけですから、その意識状態が一体どういったものなのか、見当もつきません。しかし、意識を示したその脳を処分することは、殺人にも似た罪悪感を抱かざるを得ないでしょう。脳機能が解明されることは大歓迎なのですが、脳研究と倫理の問題は非常に難しいものになりそうです。

元記事: Science Alert

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