どのような生物の遺伝子も手軽に改変できるゲノム編集技術CRISPRですが、未知の変異が入る危険性は完全に理解されていません。しかし、新たな研究で変異の入る法則性が発見されました。発見はフランシス・クリック研究所のパオラ・スカフィディによって行われ、“Molecular Cell”で発表されています。
CRISPRゲノム編集という用語は、若干誤解を招く用語です。というのも、CRISPRは、DNAを任意の部位で切断することで遺伝子機能を除くことが最も一般的な使い方だからです。細胞は切断されたDNAを修復しようとして、1文字から2文字の塩基を加えたり除いたりすることで変異が入ります。
この変異の入り方が、実は思われているほどランダムではないのではないかと、研究者たちは考えました。そこで、人の培養細胞を使って、1500個の標的への変異の誘発を行い調べたのです。
彼女らが発見したのは驚くほど単純なパターンでした。最初の計画ではパターンを探すために機械学習AIを使う予定でしたが、その必要もなかったほどです。鍵は、CRISPR-Cas9タンパク質にターゲットを認識させるために使われるRNAの配列にあります。末端から4番目のDNA文字がGの場合、入る変異は全くのランダムです。しかし、AやT、Cの場合は結果は予想しやすいものになります。例えば、Tの場合、10個の細胞のうち9個は標的配列に余分なTが1つだけ挿入されます。
もしこの発見が確かであるならば、CRISPRを使う世界中の研究者たちは、使用するRNAの配列を変えるだけで、ずっと正確に変異をデザインすることができるようになります。また、遺伝病の治療にCRISPRを使って遺伝子の修復をした際に体内に引き起こされる変異の予想も大幅に改善されます。
しかし、安全性に対する疑問は依然残っています。今年始めに報告された5個に1つの割合で入る、CRISPRで誘発される大きな欠失は、標準的な変異検出法では見つけることができません。スカフィディのチームもこの大きな欠失については調べておらず、彼女のアプローチでこの欠失が防げるかどうかはわかりません。
あるグループは、DNAを切断することなくDNA文字を1文字だけ交換するように改良したCRISPRタンパク質を作っています。これは、塩基編集として知られている技術で、病気の治療に対してより安全な方法であると証明されるかもしれません。しかし、スカフィディの方法も非常に価値のあるものです。
中国で双子の赤ちゃんに対して使われ、非難を浴びたCRISPRゲノム編集ですが、未知の変異が入らないように改良するために研究は進んでいます。その努力が踏みにじられたので怒っているわけですが、安全に使われるようになると助かる命もたくさんあります。研究が進んで、安全に使える日が早く来るといいですね。
参考記事: NewScientist
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