花を咲かせる植物と、ハチのように花粉を運んで受粉を助ける媒介者の間の関係は複雑なネットワークを作っていますが、観察することで多くのことを教えてくれます。花の色と匂いの進化が、対立よりも協力したほうが良いことを示してくれました。
世界には何千種類ものハチがいますが、その視覚システムは全く同じです。青や緑といった波長の光に敏感に反応し、人間には見えない紫外線も見ることが出来ます。
この古い視覚システムは、植物で花が進化するのに先立っています。なので、世界中の花々は、ハチの目に留まりやすいようにその色を進化させてきました。
例えば、紫外線に感度のある感覚系によって感知される花の見え方は、人間が見ているものとは完全に異なっています。
また、花には複雑で魅力的な匂いにも豊富な種類があることはよく知られています。なので、複雑な自然環境において、次のような疑問が湧いてきます。ハチにアピールする信号として適しているのは、色でしょうか?それとも匂いでしょうか?
研究者たちの最新の研究では、面白い結果が出ています。ハチを誘うために色や匂いを使ってお互いを打ち負かそうとするのではなく、協力することで受粉媒介者を全体として引きつけようとしているようなのです。これは、現代社会の広告戦略にも通用しそうな方法ではないでしょうか。
途方もない数のフィールドワークによる研究
従来の考え方では、花はそれぞれ識別しやすい独特なサインを持っていなければならないとされていました。ハチが蜜という報酬を目的に、また同じ種類の花を見つけるられるようにするためであり、受粉の可能性を高めるという点で理にかなっていると言えます。
同じ色を持った異なる種類の花の間で起こる、競争的な進化という見方をすれば、花はそれぞれ別の匂いを進化させることで差別化し、同じ種類の花に引きつけようとすると考えられます。同じ理論で、同じ匂いの花は、違った色に進化するはずです。
研究には膨大なフィールドワークが行われたようです。花の色を詳しく識別するために、分光光度計が用いられました。色を数値化して見ることが出来ます。花の匂いも、特別なポンプと化学物質採取ツールで集めています。
同時に、花へやってくる媒介者を記録するために、訪問の詳細な記録も必要でした。これらのデータは、ハチの感覚モデルへと組み込まれました。統計解析によって、現実世界にある進化したシステムの複雑な相互作用がわかるようになりました。
思ってもみなかった結果
解析の結果から見えてきたものは、想像を超えていました。研究結果は、「Nature Ecology & Evolution」と「Nature Communications」で発表されたのですが、競争とは正反対のものが見つかったのです。花たちは、ハチによる訪問を容易にするよう協力した信号を進化させていました。
完全に関係性のない異なる種の花が、同じく「紫色的に匂」ったり、赤い花たちはそれとは別の匂いを共有したりしていました。競争という観点から予想されていたものとは全く異なっています。では、なぜ進化の進んだ典型的な信号受容者のなかで、こういったことが起こるのでしょうか?
データによると、信頼できる色と匂いの組み合わせで多くの媒介者を引き付けるほうが、独自のシグナルで個別種への誘引を最大化するよりも、花たちにとって有利であることが示されています。
信頼できる組み合わせのシグナルを持つことで、違う種類の花であっても蜜の見つかる花が見つかりやすくなるよう協力して働き、より多くの媒介者が来ることで、全体として同種の花に受粉しやすくなっているのです。
広告への教訓
広告やマーケティングに関わる研究の多くは、消費者の行動を考えています。どのように選択を行うのかや、複雑な環境で物色しているときに何が選択を促すのかと言ったことです。
現代のマーケティングの多くが、製品の差別化や売上を伸ばす競争といったものを強調します。しかし、研究が示しているのは、自然界では、利便化が好まれるということです。望ましい特徴を共有することで、システムはより効率化することが出来ます。
産業界での似たような事例は、スマホのアプリが、操作性を共有化して利便性を高めているといったものです。似たような製品で望ましい特徴を共有することで、利用者を増やして売上を伸ばせます。進化でも、同じような解決法が好まれるようなのです。
花が教えてくれた、競争よりも協力という教訓。広告業界だけでなく、人生を生きていく上でも指針として使えそうです。競争して消耗するよりも、協力して全体の繁栄を目指しましょう。
参考記事: The Conversation
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