新型コロナによる感染症COVID-19を予防するために開発されている新しいワクチンが立て続けに素晴らしい試験成績を見せていますが、ここで使われているmRNAワクチンとは何でしょうか?
冬になって気温が下がり、COVID-19の感染者数も増えてきています。
昨年発生してから、もう1年となりますが、世界で猛威をふるい人々の暮らしを一変させてしまいました。
感染拡大を抑えるにはワクチンを使うのがいいのですが、1年という短い期間で新しいワクチンを開発するのはほとんど不可能と考えられていました。
しかし、ここに来てファイザー社/バイオエヌテック社とモデルナ社が立て続けに、承認を得るための臨床試験での素晴らしい成績を発表しています。
通常のワクチン開発では考えられないほどの開発スピードです。
その解析結果はまた、仮の段階ではあるのですが、非常に有望視されていて、その影響は株式市場にも現れたくらいです。
両社が作っているワクチンは、新しいタイプのワクチンでmRNAワクチンと呼ばれており、いまだ製品化された例のないものです。
有望な試験結果
モデルナのワクチンは現在フェーズ3と呼ばれる臨床試験段階にあって、その中間結果が発表されています。
mRNA-1273と名付けられたmRNAワクチンを使った試験が、アメリカの成人30,000人の被験者で行われました。
その後、被験者の中に95人のCOVID-19感染者が出たのですが、ワクチン接種されたグループの感染者はわずか5人で、残りの90人はすべてプラセボ(偽薬)を投与されたグループでした。
この結果が意味しているのは、このワクチンが94.5%という高い有効率を持っているということです。
さらに、感染者の中で重症化したのは11人でしたが、すべてがプラセボグループの人たちでした。
一方、ファイザーのワクチン候補BNT162b2もフェーズ3の試験を行っていますが、有効率は90%とこれも高い値が出ています。
mRNAワクチンの働き
ワクチンがどのように働くのかは、以前の記事で説明していますが、簡単に言うと、「ワクチンにより事前にウイルスの情報を免疫系に教えておくことで、本物のウイルスに遭遇した時即座に防御できるようにする」です。
そのため、通常のワクチンには弱毒化したウイルスや、そのタンパク質の欠片などが含まれています。
mRNAワクチンが他のワクチンと異なるのは、ウイルスのタンパク質そのものではなく、ウイルスたんぱくの暗号を持った遺伝物質、mRNA(メッセンジャーRNA)が使われていることです。
ワクチンに含まれるmRNAが、上腕の筋肉に接種されると、筋肉の細胞がそのmRNAをタンパク質へと翻訳します。
つまり、体内で直接ウイルスのタンパク質を作り出すのです。
これは、実際のウイルスが体内で行っていることと同じですが、ワクチンに含まれるmRANがコードしているのは鍵となるタンパク質だけなので、毒性はなく、病気になることはありません。
免疫系は、病気にかかることなく実際のウイルスがどういうものであるのか学習し、時間をかけて強力な抗体を準備することができるのです。
mRNAは遺伝物質ではありますが、子供へと遺伝することはありません。
タンパク質の鋳型となるだけで、その役割が終われば分解されてしまいます。
注射されたmRNAによるタンパク質合成がピークを迎えるのは接種後24時間から48時間で、長ければその後2,3日続きます。
mRNAワクチンの開発速度が速い理由
古典的なワクチン開発は、よく研究されているのですが、開発にとても時間がかかり、新型ウイルスのパンデミックなどでは素早く反応することはできません。
例えば、インフルエンザでは、流行しているインフルエンザウイルスを特定してから、ワクチンを作るまでにおよそ6ヶ月かかります。
ワクチンに使う候補ウイルスを育てて、毒性を弱めて鶏の卵で増えるように改造したハイブリッドウイルスにするまでに、3週間。
ハイブリッドウイルスを大量の有精卵に注射して、増やすのに数日。
そして、このウイルスが含まれた液体を卵から集めて、ウイルスを殺し、ウイルス蛋白を精製するのに更に数日かかります。
mRNAの場合、感染性のない弱毒化されたウイルスを作る必要がなくなるうえ、医療で必要とされる純度のウイルス蛋白を精製する必要もありません。
MRNAワクチンは、ウイルスタンパク質を接種する場合の、製造工程を省略することもできます。
接種された人体そのものが遺伝暗号に従って、製造工程をそのまま肩代わりしてくれるからです。
また、mRNA分子はタンパク質よりもずっと単純な分子です。
そのため、製造は生物培養というよりも、化学的に行うことができます。
つまり、古典的なワクチンよりもずっと速く合成できる上、スケールアップした大量生産も簡単にできます。
実際、新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」の遺伝暗号が利用可能になってから数日で、試験用のワクチン候補となるmRNA暗号の準備は整っています。
さらに魅力的なのが、一度mRNAワクチン開発の仕組みが整ってしまえば、今後起こりうる新しいウイルスのパンデミックにも素早く対応できるようになるということです。
mRNAワクチンの弱点
MRNAの技術は新しいものではありません。
それは、合成されたmRNAを動物に注射し、細胞が意図したタンパク質を生み出すことができた実験から始まっています。
しかし、その進歩はゆっくりとしたものでした。
その理由は、mRNAがひどく不安定で、簡単に小さな断片へと分解してしまうばかりでなく、人の免疫系による防御システムによっても簡単に破壊されてしまうからです。
しかし、2005年の初頭、研究者たちは、mRNAを小さな顆粒へ閉じ込めて安定化させワクチンとして届ける方法を発見しました。
mRNA COVID-19ワクチンはこの技術を使って、初めてFDAに認可されたワクチンとなるでしょう。
10年の研究結果として、mRNAは初めて評価できるものとして準備が整いました。
医師たちは、予想しなかった免疫反応を今後見ることになるかもしれません。
それが、助けになるものであるか、有害なものであるかはわかりませんが。
なぜ、mRNAは極低温で保存しなければならないの?
mRNAワクチンを開発する上で最も重要な課題が、mRNAの不安定さです。
凍結温度以上だと分解しやすいのです。
mRNAの材料を修飾したり、包み込む顆粒を開発することは、mRNAワクチンを比較的安定化させる助けとなっています。
しかし、それでも輸送や管理する時には凍らせておく必要があるのです。
ファイザーのmRNAワクチンの保存に適した温度は-70℃とされており、凍結温度よりも少し高い冷蔵庫の温度まで溶かすと5日間で分解されてしまいます。
ファイザーは輸送や保存のためのドライアイスで冷やせる容器も開発しています。
一方モデルナのワクチンは通常の冷凍庫で6ヶ月保存でき、輸送や長期保存できます。
また、モデルナはこのワクチンが冷蔵庫の温度でも安定しており、保存期間である6ヶ月の範囲内でなら溶かしてから30日間は保つとしています。
いずれも、保存時の温度にさえ気をつけておけば実用に際しての問題はないように思えます。
参考記事: The Conversation
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