マウスの脳に痛みを深いレベルでコントロールする領域が発見されました。脳全体にちらばる痛み中枢をシャットアウトするのです。この領域は情動や記憶の調節に関わっていると考えられている扁桃核でみつかりました
災害などの危機的状況を命からがら逃れてきた人が、怪我をしているにも関わらず気づかなかったという体験談など聞いたことがあるかもしれません。
動物には緊急時、痛みを感じなくさせるしくみがあるようなのです。
麻酔薬を使えば、痛みを感じなくすることができるのですが、麻酔薬がなぜ効くのかは実際のところよく分っていません。
痛みの研究では今まで、痛みを感じたときに活性化する領域というものに焦点が当てられていました。
今回発見されたもののように、活性化すると痛みを感じさせなくする中枢というものは見逃されていたのです。
今回の研究は、一般的な麻酔薬によって抑えられるのではなくて活性化する神経の探索のフォローアップ研究として行われました。
2019年に行われた研究では、一般的な麻酔薬が脳の視索上部核を活性化させることで、脳波の緩やかな睡眠に導くことが発見されています。
しかし、睡眠と痛みは別物であるという手がかりを元に今回の発見に至りました。
研究は「Nature Neuroscience」で発表されています。
マウスを使った新たな研究では、一般的な麻酔薬を使うことで、脳の扁桃体中心核にある抑制神経の集団が活性化されることが発見されています。
この神経を研究者たちはCeAga神経と名付けています。
研究ではこれらの神経の経路を追跡する最新の技術を使って、CeAga神経が脳の多くの異なる場所とつながっていることを発見しました。
マウスに弱い痛み刺激を与えることで、痛みで活性化する脳の領域をマッピングすることができます。
このようにマップされた、痛みに関連した感覚や感情を司る神経中枢のうち少なくとも16箇所が、CeAga神経によって抑制されることがわかったのです。
次に光遺伝学の手法を使って、光によって脳細胞の小集団を活性化させる実験を行いました。
すると、CeAga細胞を活性化させたときに、マウスが不快感を感じたときに行うセルフケア行動の抑制がおきました。
CeAge神経に光を当てると、手をなめたり、顔を拭いたりする行動を全くしなくなったのです。
研究者によると、行動は即座に止まったといいます。
そして、CeAga神経の活動を停止させると、まるで痛み刺激が強くなり、痛みが再び襲ってきたかのように反応しました。
更には、感覚はそのままに痛みだけを抑える麻酔薬、ケタミンを低用量使用するとCeAga中枢が活性化し、CeAga神経がなかったら効かなくなることも研究者たちは発見しています。
研究の次の目的は、これらの神経細胞にだけ作用し、痛みを消す鎮痛剤を見つけることです。
CeAga神経などの痛みを調節する細胞の表面にだけ現れる遺伝子を見つけられれば、他の神経には作用せずに、痛みを抑える薬が可能となるでしょう。
脳全体に散らばる痛みに関する神経を一斉に抑える働きのある神経が見つかったのは面白いです。
怪我をしたときに、逆に痛みを感じなくなるという経験をされた方もあるでしょう。
そういった時、このCeAga神経が活発に働いて痛みを除いていたということかもしれませんね。
参考記事: Science Daily
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