固形がんの免疫療法に大きな進歩!超音波を使った副作用の出ない方法がマウス実験で成功

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がんは死にいたる恐ろしい病気ですが、ヒトの免疫はがんを排除する能力があることがわかっています。ヒトの持つ免疫力を使ってがんを治療するのが免疫療法です。その一つがCAR-T細胞療法で、今回紹介するのは、その適用範囲を広げるものです。

カリフォルニア州立大学サンディエゴ校のバイオ工学者たちが、正常な組織には影響しないで悪性腫瘍を破壊する、がんを殺す免疫細胞と超音波を組み合わせたがん免疫療法を開発しました。

この新たな実験段階の治療法は、マウスにおいて固形がんの成長を有意におさえました。

固形がんとはがん細胞同士が集まって塊を作る種類のがんのことで、血液がんや白血病以外のすべてのがんが含まれます。

同校のバイオ工学教授ピーター・イングシャオ・ワンと名誉教授シュウ・チェンに率いられた研究チームは、詳細を8月12日号の「Nature Biomedical Engineering」誌で発表しました。

この研究は、がん免疫療法の分野において長く問題となっていた、固形がんの治療に安全で効果的に使えるキメラ受容体遺伝子改変T細胞療法(CAR-T細胞療法)をあつかったものです。

CAR-T細胞療法はがん治療において有望な、新しい取り組みです。まず、患者から免疫細胞であるT細胞を集め、それを遺伝子工学によって特別な受容体を発現するように操作します。その受容体はCARと呼ばれるもので、T細胞表面に出て、がん細胞表面にある特別な抗原を識別します。こうして作られたCAR-T細胞は患者の体内に戻されると、がん抗原を持つ細胞を見つけて攻撃します。

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Arek SochaによるPixabayからの画像

この治療法は血液のがんや白血病の治療によく効きますが、それ以外の固形がんにはききません。というのも、標的となる固形がんの抗原の多くが、正常な組織や器官でも発現しているからです。なので、毒性のある副作用が正常な細胞を殺してしまいます。この副作用をon-target off-tumor toxicityと言います。

「CAR-T細胞は識別能力が高く、わずかな抗原しか現れていない通常の組織さえも攻撃してしまいかねません。通常のCAR−T細胞の問題は、常にスイッチの入った状態、つまりCARタンパク質が常に発現していることで、そのために、活動をコントロールできないのです」と、筆頭著者のシャーリー・ウーは述べています。

この問題を解決するために、通常のCAR-T細胞を使ってそれを再改変し、超音波が当てられたときにだけCARタンパク質が発現されるようにしました。それによって、研究者たちはCAR-T細胞の遺伝子スイッチを選択した場所や時間にだけオンにすることができます。

「わたしたちはがん免疫療法において、超音波を使うことで生体内でCAR-T細胞をコントロールすることに成功しました」と、医療工学研究所やナノ免疫工学センターのメンバーでもあるワン教授は述べています。ワン教授が強調するのは、この治療法が皮下数十センチまで浸透できることで、身体深くにあるがんに対しても、非侵襲的ながん治療が期待できるということです。

チームの行った実験では、再改変されたCAR-T細胞をマウスに注射し、腫瘍のある部分の皮膚領域に小さな超音波振動子を当てて、CAR-T細胞を活性化させました。この超音波振動子では、超音波ビーム収束機を使って、腫瘍に短い超音波エネルギーのパルスを集中させました。この操作によって腫瘍は穏やかに加熱(この場合43℃)されましたが、周囲の組織には影響を与えていません。この実験で使われたCAR-T細胞は、熱にさらされたときにだけCARタンパク質を生産するように遺伝子改変されています。そのため、超音波が当てられた部分でだけこのCAR-T細胞はスイッチがオンになるのです。

そこで、新しいCAR-T細胞と通常のCAR-T細胞との間で試験を行いました。新しいCAR-T細胞を処方されたマウスでは、超音波が当てられた腫瘍だけ攻撃を受けていましたが、他の組織はそのまま無事でした。しかし、通常のCAR-T細胞を処方されたマウスでは、すべての腫瘍と、抗原を発現したすべての組織が攻撃を受けていました。

「この実験で、私達のCAR-T細胞療法が効果的であるだけでなく、安全でもあることが示されました。on-target off-tumor副作用が最小に抑えられているのです」

研究はまだ初期段階です。臨床試験にまですすめる前に、さらなる臨床前試験や毒性試験をこなすことになるでしょう。

参考記事: Medical X press

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