【COVID-19】重症化の原因と考えられている「サイトカインストーム」って何?

嵐 医学

新型コロナウイルスによる感染症COVID-19は、多くの人が無症状や軽症である一方で、重症化して死に至ることもあります。死に至る原因の一つとして考えられているのが、免疫の暴走、「サイトカインストーム」です

2020年5月の初頭現在、20万人以上の死者を出し猛威を奮っているCOVID-19ですが、どのようにして重症化するのか、その解明は始まったばかりです。

COVID-19による症状が起きるのは、肺や呼吸器だけではありません。

心血管や消化器官さらには神経系にまで症状をきたすことがあるのです。

初期の研究で判明しているのは、死に至る症状の多くが、患者の免疫系がCOVID-19に過剰反応した結果であるということです。

この「サイトカインストーム」と呼ばれる過剰反応について詳しく知ることが、ウイルスによる死者を減らす鍵となる可能性があるのです。

サイトカインって何?

サイトカイン

Photo credit: NIAID on Visual hunt / CC BY

免疫系は、体内に侵入してきた細菌やウイルスといった病原体から私達を守っています。

免疫系を担っている多くの種類の特殊な白血球が、病原体の種類を特定したり、それを破壊することで体組織を病原体から守っています。

一度病原体を検知すると、これらの免疫細胞は炎症を引き起こしたり、より多くの免疫細胞を動員したりする必要があります。

免疫反応が機能するには、免疫細胞間のコミュニケーションが効果的に行われる必要があります。

この細胞間でのコミュニケーションのために放出されるのが、小さなシグナル分子であるサイトカインです。

サイトカインが放出されると、局所的な炎症が引き起こされます。

炎症は病原体を排除することを目的とした、生理的な反応です。

炎症により、発赤、腫れ、痛みや熱がおこります。

放出されたサイトカインは、その受容体と結合することで機能します。

受容体は、近くの細胞が持っていることもあれば、放出した細胞そのものが持っていることもあります。

サイトカインには種類があり、中にはサイトカインの放出を増加させるものもあります。

こういった条件がそろうと、サイトカインがサイトカインの放出を増加させる正のフィードバックループが出来上がり、炎症が加速するのです

その結果よく起こるのが体温の上昇で、炎症が起きている重要なサインとなります。

サイトカインには色んな種類があるということは重要です。

サイトカインは、放出している細胞の種類によって分類されることが多く、類似性で分類されることもあります。

サイトカインは種類によって、受容体に結合した際の効果が異なってきます。

例えば、あるものは炎症性反応を強め、あるものは弱めます。あるものは多くの免疫細胞を動員し、そして、中には組織にダメージを与えかねないものさえあるのです。

つまり、感染への反応としてどのサイトカインが放出されたかを知ることの方が、サイトカイン全体の量を知ることよりも重要となることがあるのです。

サイトカインによる嵐(ストーム)

ある症例では、感染中に免疫系が過剰反応し、必要以上のサイトカインが放出されました。

それにより、活性化して「怒った」白血球が進行的に動員されることで、更に多くのサイトカインが放出されるようになりました。

つまり、「サイトカインストーム」が現れたのです。

ホルモンや神経伝達物質のような他のシグナル分子と同様に、サイトカインも血流に乗ることができます。

強力な炎症調節分子が全身を巡ることで、敗血症や抗がん剤の副作用で見られるような全身症状が現れる可能性があります。

大量のサイトカインは、多臓器に炎症を引き起こし、多くの臓器にダメージを及ぼす可能性があるのです。

サイトカインの中には、血管に影響するものもあり、血圧を激減させることがあります。

それにより、血液の供給が限定され、心臓や肺、脳や腎臓といった生命維持に必須の臓器や組織に酸素や栄養素が行き渡らなくなるのです。

サイトカインとCOVID-19

Simon OrlobによるPixabayからの画像

サイトカインストームの正確なメカニズムや、COVID-19の致死性への関与は、いまだ調査中です。

「サイトカインストーム」が重症化を引き起こした多くの患者では、急性呼吸不全が急速に進展したことで、生命維持に必要な臓器に十分な酸素を送れなくなりました

こういった患者においては、サイトカインのかなりの増加が見られ、そのなかでもマクロファージの移動や活性化を調節する種類のものが顕著でした。

マクロファージは白血球の一つで、病原体の排除や炎症の調節に特化した細胞です。

もし、COVID-19の患者のように、マクロファージが肺に移動すれば、炎症が肺全体に広がって、呼吸に障害がおこります。

感染症をよりよく理解し、治療法を見つけるためには、COVID-19重症症例のさらなる臨床的、免疫学的解析が必要です。

治療の現状

「サイトカインストーム」を「鎮める」試みとして、新旧多くの治療戦略が考えられ、実際に試されています。

サイトカインの生産を抑えたり、炎症を進めるサイトカインのシグナル経路を遮断することで、免疫細胞を抑える治療法に目が向けられています。

ハイペースなパンデミックによって、研究者たちや医師たちは、免疫の過剰反応が原因の他の病気(クーロン病や関節炎)のために開発されている多くの治療法を試すことを強いられています。

とはいえ、免疫抑制による治療は、鍵となる免疫細胞の減少や機能低下ですでに苦しんでいるCOVID-19患者には大きなリスクを課すことになります。

以前行われた動物実験では、サイトカインの沈静化により敗血症によるショック症状を抑えることができたのですが、同時に免疫力を低下させることで、細菌感染に対しては脆弱になってしまったのです。

COVID-19のより効果的な治療法を見つけるための努力は、あらゆる側面から行われて、驚くほどの臨床試験が行われています。

サイトカインストームを標的とした治療法や治療薬も出てきており、臨床試験も進んでいます。

効果的な治療法が見つかるのもそう遠くないかもしれません。

参考記事: The Conversation

 

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