アルバータ大学の研究によると、免疫系分子であるフラクタルカインに、多発性硬化症の鍵となる、ミエリンを生成する脳細胞の形成を加速させる作用がある可能性が示されました。
ミエリンは神経の周りにある絶縁層で、多発性硬化症などの病気では、炎症により少しずつはがれてしまいます。この層がなくなると、神経を伝わる信号の伝達速度が落ちてしまい、問題を生じます。
この神経変性性の病気の進行を遅らせたり、症状に対処する方法はありますが、効果的な治療法には失われたミエリンの修復が不可欠でしょう。ミエリン化の活性を促進する方法を見つけることは、治療法の開発における不可欠な一歩だと言えます。
遺伝医学部と神経幹細胞学のカナダリサーチチェアの助教授であるアナスタシア・ボロノバの説明によると、神経幹細胞は多様な脳細胞を生み出し、中枢神経系や末梢神経系にあるタイプの細胞であるオリゴデンドロサイトもその中に含まれます。オリゴデンドロサイトはミエリンを生み出すことのできる唯一の脳細胞です。
「発生段階では、これらの神経幹細胞は脳を作ります。大人の脳でも、これらの細胞が存在するのは、オリゴデンドロサイトを含む細胞が傷ついたり失われた際に補充するためです」と神経科学精神健康研究所のメンバーでもあるボロノバ氏は言います。
「しかし、特に人間では、オリゴデンドロサイトの置き換えは非常に効率がよくありません。私の研究室の目的は、私達すべてが持っていいる、オリゴデンドロサイトを補充できるこれらの神経幹細胞を覚醒させる物質を特定することです。」
ボロノバ氏の研究では、いままで免疫系でのみ機能を持つと考えられていたフラクタルカインに、神経幹細胞をオリゴデンドロサイトへと変化させる強い促進作用が示されました。
「フラクタルカイン分子と受容体は一緒に働いて、細胞内のシグナル伝達系を誘導します。こういった科学研究が行えるとはとても興味深い時代になりました。私達はこういったオリゴデンドロサイトに何ができるのか、そのすべての範囲を評価し始めたところだと思います。」
ボルノバ助教授のチームは、多発性硬化症モデルマウスを使って、フラクタルカインが再ミエリン化の能力を持つのかを現在研究しています。ボルノバ助教授はまた、フラクタルカインが他の神経変性障害においてもミエリン化の効果を持つのかを調べる計画を持っています。また、フラクタルカインが持つ免疫系の特徴もまた、将来の薬の開発において重要であると言います。多発性硬化症も他の神経変性障害も、強い免疫組成を持つからです。
「多くの種類の神経変性障害において、ミエリンは減少します。ということは、オリゴデンドロサイトの形成を強化するというアイディアや、それがミエリンを修復するというアイディアは非常にエキサイティングです。」
研究は、「フラクタルカインシグナル伝達は、SVZ前駆細胞からのオリゴデンドロサイトの形成を調節する」というタイトルで「Stem Cell Reports」で発表されています。
多発性硬化症は、現在治療法の存在しない難病です。神経の鞘であるミエリンが、自己免疫によって損傷されるのが病気の原因となる自己免疫疾患でもあります。もし、損傷されたミエリンを回復することができれば、きっと治療に結びつくでしょう。今回紹介した研究は、治療法開発の出発点となるかもしれません。
参考記事: MedicalXpress
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