見えない攻防!助けを求めて泣き叫ぶトマトを黙らせるイモムシ

トマト 生物学

トマトは食べられているときに、化学物質を放出して周りに知らせ、助けを呼ぶことが知られていますが、食べる側のイモムシの中にはその叫びを抑えるものがいることがわかりました。

植物が助けを呼ぶ、というところでまず疑問に思われる方もおられるかもしれません。

声を発したり動いたりしない植物がどうやってコミュニケーションをとるのでしょうか。

植物がコミュニケーションをとるという考えが最初に発表された時、それを怪しむ科学者も多くいました。

しかし、現在では、植物がコミュニケーションをとるということは知られた事実となっており、関連する研究も多くなされています。

植物は、葉をかじられるなどの、攻撃を受けたときに、苦痛を伝える化学物質を放出して、周囲の植物に知らせています

そうすることで、仲間の植物が防御のために、捕食者の害になる物質を作ったり、捕食者の天敵を呼び寄せたりすることができるのです。

庭の芝を刈っているときに強くなる独特の匂いがその例で、その匂いを受けて、まだ刈られていない葉っぱは、防御的な化学物質を作り始めます。

よく考えると、植物が花の蜜で昆虫を引き寄せ、受粉の助けとしているのもある種のコミュニケーションと言えるでしょう。

このように、植物は周囲の生物と、コミュニケーションをとりながら生きているのです。

トマトもその例外ではなく、食べられている時に周囲にそれを知らせるシグナルを発しています。

トマトは、イモムシが葉っぱを食べている時に、揮発性の化学物質を放出して、寄生性の昆虫を呼び寄せます。

その昆虫は、イモムシの天敵である寄生蜂の一種で、イモムシの体内に卵を産みつけて最終的には殺してしまいます。

そこで、今回の研究を行ったペンシルバニア州立大学の研究者たちはこう考えました。

では、イモムシが、この防衛機構に対してやり返すこともあるのではないかと。

そこで、一連の実験を行った結果、その答えがイエスであることを発見しました。

ここでも、生物界でよく見られる捕食者と獲物の間の競争が起こっていたのです。

その鍵となっているのが、イモムシの唾液に含まれる酵素です。

この酵素には、トマトの葉にある気孔の開放を抑える働きがあります。

気孔が開かないということは、苦痛を知らせるシグナルの放出も抑えられるということです。

すると、トマトを助ける寄生性の蜂が呼び寄せられることも少なくなると考えられます。

今回の研究では、実際に寄生蜂を使っての実験は行っていないのですが、寄生蜂がトマトの発する匂いに反応することはよくわかっています。

そして、実験ではイモムシに食べられた際の、トマトの葉の気孔の大きさと、放出されるシグナルの量を測っています。

また、気孔に影響を与える酵素を唾液に持つイモムシだけでなく、酵素を持たないイモムシを使った実験も行っています

遺伝子編集技術であるCRISPRを使って、酵素の遺伝子を取り除いたイモムシを作ったのです。

実験の結果、唾液にこの酵素を持たないイモムシは、トマトの苦痛シグナルを抑えることができなくなっていました

 

今回研究されたイモムシは、アメリカタバコガの幼虫で、トマト以外にも、トウモロコシや、綿花、大豆、いちごなど、幅広い農産物にも害を及ぼします。

そのため、このイモムシを阻止する方法を見つけることができれば、農業にとって有益です。

一つの方法として、このイモムシの唾液に含まれる酵素に対して耐性のある品種を作ることが考えられます。

今回の研究に携わった研究者の一人は、長年イモムシの唾液に含まれる酵素について研究しており、以前の研究では、タバコに含まれるニコチンの量を抑える働きを持つ酵素を見つけています。

のろのろうごくイモムシもじっとたたずむトマトも、一見のどかですが、その裏では激しいツバぜりあいが行われていたわけですね。

参考記事: Phys.Org

 

コメント