どうやって、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は地球外生命を見つけるの?

WASP-96b大気組成 天文学

生命の材料となる物質は、宇宙全体に散らばっています。いまのところ生命が見つかっている唯一の場所は地球だけですが、地球の外で生命を見つけることは、現代の天文学や惑星科学の大目標の一つです。

本格運用が始まったジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって、太陽系外の惑星(系外惑星)の大気の化学組成がもうすぐ分かるようになるでしょう。こういった惑星の中に、生命の存在を示す化学組成を持ったものが、1つ以上見つかることが期待されています。

生命が存在できる惑星

太陽系内部でも、液体の水が存在する場所には生命が存在するかもしれません。例えば、火星の地下の帯水層や、木星の衛星エウロパの海などです。しかし、そういった場所で生命を見つけることは極めて難しいです。というのも、到達すること自体難しく、さらには、生命を見つけるためには探査機を送って、実際のサンプルを持ち帰る必要がありそうだからです。

多くの天文学者たちは、系外惑星で生命が見つかる可能性は高いと考えていて、最初に地球外生命が見つかるのは系外惑星である可能性もあります。

理論的な概算では、天の川銀河だけでも、およそ3億の生命が存在可能な惑星があるとされており、地球から遠くない宇宙である、30光年圏内にもいくつかの地球サイズで生命が存在可能な惑星があります。

今までに、天文学者たちは主星への影響を調べる間接的な方法で、5000個以上の系外惑星を見つけていて、その中には、生命の可能性のあるものも数百あります。こういった発見法からは、惑星の質量や大きさがわかりますが、それ以上のことはわかっていません。

生命存在指標を探す

葉緑素の吸光度

credit:wikimedia

遠くの惑星で生命を見つけるには、惑星の表面や大気を通過して変化した、主星の光を研究します。もし、大気や地表が生物によって変化しているなら、光には「生命存在指標」と呼ばれる、生命の手がかりが含まれている可能性があります。

地球が生まれてこれまでの、最初の半分に当たる期間、地球には単純な単細胞生物はいましたが、大気に酸素はありませんでした。初期の地球の生命存在指標はとてもかすかなものだったのです。24億年前、藻類が進化したときにそれは突然変わります。藻類は他の物質から独立した単独の酸素分子を生産する光合成を利用しました。このときから、地球の大気には酸素が大量に存在し、地球の大気を通過する光には、強力で簡単に検知できる生命存在指標が記されています。

光が、物体の表面で反射したり、気体の中を通過したとき、ある波長の光は物体の表面や気体の中に取り込まれてしまいます。このように選択的にある光だけ取り込まれることで、物体にはそれぞれ違った色がついたように見えるのです。葉っぱが緑色であるのは、葉緑素が赤や青の光をよく吸収するからです。葉っぱに光があたると、赤や青の波長の光は吸収され、ほとんどの緑の光は反射して、あなたの目に飛び込むのです。

ある波長の光が欠損するこういったパターンは、光が相互作用した物質に特徴のある組成で決まってきます。そのため、端的に言えば、惑星から届いた光を測定することで、天文学者たちは、系外惑星の大気や表面の組成がどのようなものか知ることができます。

この方法を使えば、酸素やメタンといった、生命と関係のある気体が大気に存在するのかを調べられます。酸素やメタンも光に対して特徴的な痕跡を残すからです。また、惑星表面の特徴的な色を検出することもできます。例えば、地球では植物や藻類は、葉緑素や他の色素を使って、特別な波長の光を光合成のために取り込みます。こういった色素は、特徴的な色を発するので、感度の高い赤外線カメラを使えば検出できます。もし、遠くの惑星の表面で、こういった色の反射をとらえることができれば、それは葉緑素が存在する可能性を示しているのです。

宇宙望遠鏡と地上の望遠鏡

ジェイムズ・ウェッブによる星雲

Credit:NASA

こういった、生命存在の可能性のある系外惑星からの光に生じた微妙な変化を検出するには、驚くほど強力な望遠鏡が必要です。今の所、そのような能力を持った唯一の望遠鏡が、新たに稼働を始めたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡です。ジェイムス・ウェッブは科学任務を2022年7月に開始するとすぐに、巨大ガス惑星であるWASP-96bのスペクトラムを解読しました。スペクトラムから、水や雲の存在が示されましたが、WASP-96bほど大きくて温度の高い惑星には、生物がいる可能性は低いでしょう。

しかし、この初期のデータは、ジェイムズ・ウェッブが、系外惑星からの光に残ったかすかな化学痕跡を検出する能力があることを示しています。ここ数ヶ月以内に、地球から36光年の距離にあって、地球サイズで生命存在の可能性のある系外惑星、TRAPPIST-1eにジェイムズ・ウェッブはその巨大な鏡を向けます。

ジェイムズ・ウェッブは、惑星が主星の前を横切った時に、惑星の大気を通過した光をとらえて、研究することで生命存在指標を見つける能力があります。しかし、ジェイムズ・ウェッブは生命探索を目的に設計されていません。なので、この望遠鏡が使われるのは、近くにあって生命の可能性のある数個の惑星を詳しく調べるためだけです。また、検出できるのも、大気中の二酸化炭素やメタン、水蒸気の量の変化だけです。こういった気体のある種の組み合わせは生命を示唆するかもしれませんが、最も強い生命指標である自由な酸素を検出する能力はありません。

今後の構想を紹介すると、より一層強力な宇宙望遠鏡で、惑星の背後から照らしている光を隠して、主星の強い光が入らないようにする装置を持つというものです。このアイディアは、遠くのものをよく見るために、手で太陽の光をさえぎることに似ています。未来の宇宙望遠鏡は、小さな内部の遮蔽か、あるいは大きな外部の傘の形をした宇宙船を使うことになるでしょう。星の光がさえぎられると、惑星から跳ね返ってきた光を研究するのがずっと容易になります。

また、3つの巨大な、地上設置型の望遠鏡が現在建設中で、それらは生命存在指標を見つける能力があります。巨大マゼラン望遠鏡、30メートル望遠鏡、欧州超巨大望遠鏡です。どれも、現在地球上にあるどの望遠鏡よりも断然強力です。地球の大気で星明かりが乱されるという欠点はありますが、これらの望遠鏡は近くにある惑星の大気で酸素を見つける事ができるかもしれません。

生物学、それとも地学?

cow

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今後数十年に登場する最も強力な望遠鏡を使っても、生物によって完全に変わってしまったような惑星における、強力な生命存在指標だけを検出できるに過ぎません。

残念ながら、地上の生命によって放出される多くの気体は、非生物課程でも生み出される可能性があります。牛も火山もどちらもメタンを放出するのです。光合成は酸素を生み出しますが、太陽光も水を酸素と水素に分解することで、酸素を生み出します。天文学者が遠くの世界で生命を探すとき、偽陽性を検出してしまうことは十分にありえます。偽陽性を取り除くためには、対象となる惑星をよく理解して、地質活動や大気活動が生命存在指標を真似ることがないか知る必要があります。

次の世代の系外惑星研究では、生命の存在を証明するのに必要な、並外れた証拠を提示する必要があるでしょう。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がリリースした最初のデータは、今後に続く素晴らしい進展の予感を与えてくれました。

参考記事: The Conversation

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